研究領域 | 極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム |
研究課題/領域番号 |
21H05185
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
手塚 真樹 京都大学, 理学研究科, 助教 (40591417)
|
研究分担者 |
中島 秀太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(PD) (70625160)
上西 慧理子 慶應義塾大学, 理工学研究科(矢上), 特任講師 (80726274)
森 貴司 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 研究員 (00647761)
山本 大輔 日本大学, 文理学部, 准教授 (80603505)
|
研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
|
キーワード | 冷却原子気体の実験 / 冷却原子気体の理論 / 光格子 / 開放量子系 / フロケ状態 / 高周波展開 / 量子計算 / SYK模型 |
研究実績の概要 |
当該年度の実験では、測定誘起相転移の観測や非時間順序相関関数の測定の舞台となる光格子中の冷却リチウム(Li)原子実験系の構築を進め、6Li(フェルミオン)および7Li(ボソン)のレーザー冷却(磁気光学トラップ)を実現した。また6Liについて、磁場フェッシュバッハ共鳴により散乱長(原子間相互作用)を大きくした上で、光トラップ中で蒸発冷却を行い、フェッシュバッハ分子6Li2のBose-Einstein凝縮を実現・観測した。 将来的な冷却原子実験を念頭においた開放量子系の基礎研究として、森は、速い周期駆動下での系の加熱率を、フロケハミルトニアンの高周波展開から評価する手法を開発し、開放量子系におけるフロケ状態に関するレビューを執筆した。手塚らの、非エルミートXXZスピン鎖を、解析的手法と数値的手法を組み合わせて解析し、相関関数の距離依存性などを明らかにした論文が出版された。 量子計算機による量子多体系の計算に関連する研究として、上西と森らは、量子計算機のノイズを散逸とみたときの、非平衡定常状態の解析を行った。手塚らは、ボソン系を量子計算機でシミュレートする際のカットオフの影響について、古典計算機による評価を行った。また、手塚らは、量子ブラックホールとホログラフィック対応をもつ量子系であるSachdev-Ye-Kitaev (SYK)模型について、ランダムな全対全相互作用のほとんどを0とし、残る相互作用の大きさを定数に限った模型を数値的に調べ、固有値のランダム行列的な準位統計等、量子重力系と対応する系に期待される性質がみられることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度の実験では、6Liおよび7Liの磁気光学トラップとレーザー冷却を実現し、フェルミオンである6Liの2原子分子について、光トラップ中での蒸発冷却によりBose-Einstein凝縮を実現・観測できた。 理論面でも、計画していた研究の推進に加えて、計画研究間の連携を進めるとともに、当該年度より開始された公募研究との連携により新たな共同研究を立ち上げ、成果が得られはじめた。 これら実験と理論の進捗を合わせて考えると、全体の進捗としては、おおむね順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度の実績報告書に記載するとおり、 実験担当者は、2023年度後半に異動に伴う実験室の引越しがあったため、2024年度はまず実験系の早急な再立ち上げに取り組む。Li原子を量子縮退領域まで冷却する真空系・レーザー冷却系および前年度前半に構築した光格子系の早期の復旧を目指す。あわせて、今後の非時間順序相関関数測定に必要となる、磁場勾配生成用の追加コイルと、前年度までにテスト系において分解能を確認したエンタングルメント・エントロピー測定のための高分解能光学系を、実験系の復旧時に組み込むことを目指す。また平行して、測定誘起相転移の観測に向けた、Li2分子を光会合で生成するための光会合レーザーの周波数決定および安定化を進める。 量子多体系の時間発展や、非平衡定常状態の古典コンピュータのみでは困難なシミュレーションについて、量子計算機を活用して実現する方法を開拓する。また、これらの量子計算の精度と、量子計算機の規模や特性との関係を、古典計算の範囲で評価する研究を進める。 量子情報の非局在化である量子誤り訂正が、量子多体系のダイナミクスで実現するか否かについて、エンタングルメント容量のような系のエンタングルメントを特徴づける量の大小との関係を明らかにする。
|