研究領域 | 極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム |
研究課題/領域番号 |
21H05186
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (10469877)
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研究分担者 |
村田 佳樹 日本大学, 文理学部, 准教授 (00707804)
前田 健吾 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10390478)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | ブラックホール / 一般相対論 / 量子重力 / 量子情報 / AdS/CFT対応 / ホログラフィー原理 / 重力理論 / 超弦理論 |
研究実績の概要 |
論文として出版できた研究成果としては、先ず漸近安全量子重力理論における量子補正を施したブラックホールの構成を行った。特に正負の宇宙項を含む漸近ドジッターおよび反ドジッターブラックホールが量子補正を受けた場合に引き起こす新らたな相転移を発見した。アトラクター機構と呼ばれる漸近AdS時空における極限ブラックホールの特性がある。これは漸近AdS無限遠方での場の配位に自由度があるにも関わらずその内部臨界ブラックホールの地平面近傍では場の値が一意的に定まる特殊性である。このアトラクター機構はこれまでの先行研究では静的荷電極限ブラックホールに対する解析であったが、回転による極限ブラックホールの場合に一般化した。 重力に量子効果を取り入れるための半古典アインシュタイン方程式については、AdS/CFT対応用いた定式化を提案した。そして、AdS時空の共形境界としてのAdS時空が、その上の強結合CFTの反作用を取り込む際の強度を表すパラメーターを導入し、その値が閾値を越えると、AdS時空が動的不安定になることを3次元の場合に証明した。さらに、その摂動不安定な3次元境界AdS時空の熱力学的不安定性も確認し、量子場の効果によるAdS時空上のある種の自発的対称性の破れを指摘した。重力の量子効果を高階微分項として含む有効理論におけるブラックホールの剛性と呼ばれる対称性を示し広いクラスの有効理論におけるブラックホール熱力学の基礎定理を確立した。その他、局所AdSブラックホール時空の様々な場の摂動安定性と境界条件についての研究を進めている。 2024年2月に開かれた第2回極限宇宙領域若手研究会においては、量子ブラックホールの数理に関する研究成果を4名の領域ポスドクおよび研究協力者が発表するとともに、領域内での分野横断の情報交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
量子情報を用いた量子ブラックホールの数理の問題に関する2022年度の計画目標の一つは、量子情報理論の最新成果を研究計画班内で共有し、量子情報を用いた量子ブラックホール研究へ量子情報理論を包摂するためにどのような方法が可能なのかを探ること、その足掛かりを得ることであった。この目的のため、2024年3月21日22日に近畿大学において、研究協力者の岡村隆氏、量子重力の専門家である松村央氏による基調講演を主体とした研究会「量子もつれと重力」を開催し、量子情報理論と量子重力に関する最新情報の共有を図るとともに、研究成果を発表した。特に、量子系がつくる重力場の重ね合わせ、それに伴う量子もつれに関する最新情報を共有し、量子化されるべき重力の真の自由度の問題について検討を行った。そこでの議論を量子ブラックホールの数理や量子重力理論へ包摂するのは今後の課題としてある。
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今後の研究の推進方策 |
量子情報量を包摂する手段としての量子収束条件を、蒸発するブラックホールの文脈で、ホーキング輻射の反作用を考慮した時空上で考察し、その成否を検討する。量子重力が厳密に解ける2次元重力模型で解析をはじめ、それを基に量子エネルギー条件やエントロピーの上限等についても考察し、ブラックホールの情報喪失問題への示唆を得る。 ホログラフィー原理による半古典アインシュタイン方程式を用いた解析として、背景時空と整合する平均化された光的エネルギー条件(self-consistent ANEC)の解析を行う。ホログラフィー原理による半古典アインシュタイン方程式を用いた解析として、今年度は共形無限遠における境界AdS時空が3次元の場合に、その安定性を解析を遂行することができた。今後は一般次元の場合、特にアノマリーが現れる偶数次元の場合の解析が課題である。局所AdSブラックホールの安定性の問題の成果をまとめる。モード分解された摂動については安定・不安定解析を遂行できたが、モード和を取った場合の解析が今後の課題である。 漸近安全量子重力におけるブラックホールについては、熱力学法則と整合するスケール同一視を、これまでの研究により発見している。それを推し進めて、今後は熱力学特性だけでなく、内部特異点も同時に解消可能な好ましいスケール同一視の方法を考案することが主要課題の一つである。
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