研究領域 | 極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム |
研究課題/領域番号 |
21H05187
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高柳 匡 京都大学, 基礎物理学研究所, 教授 (10432353)
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研究分担者 |
関野 恭弘 拓殖大学, 工学部, 教授 (50443594)
奥山 和美 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (70447720)
杉本 茂樹 京都大学, 理学研究科, 教授 (80362408)
疋田 泰章 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (80567462)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | ゲージ重力対応 / 量子エンタングルメント / 量子重力 / 一般相対性理論 / 超弦理論 / ホログラフィー原理 |
研究実績の概要 |
高柳と疋田は、ドジッター宇宙に対するホログラフィー原理を3次元ドジッター宇宙に対して調べ、具体例を発見した。これまで宇宙創成を記述する量子重力理論の研究の進展が遅れてきた理由は、量子重力理論の有力な手法であるホログラフィー原理が宇宙定数が負の反ドジッター宇宙に対しては確立してきたが、現実の宇宙に対応する宇宙定数が正のドジッター宇宙については未解明であったことが大きい。高柳と疋田は、3次元のドジッター宇宙に対しては、対応する場の理論が、比較的調べやすい2次元共形場理論になることに注目して、dS/CFT対応と呼ばれるドジッター宇宙のホログラフィー対応の一つの可能性をヒントに、具体的に対応する2次元共形場理論を見出した。それは、WZW模型のレベルと呼ばれるパラメータを複素数まで解析接続した理論で与えられる。実際に、3次元ドジッター宇宙の重力理論の分配関数やエンタングルメント・エントロピーと呼ばれる量子情報量が、2次元共形場理論の計算結果と一致することが確かめられた。この研究成果はPhysical Review Letter誌のEditor's suggestionに選ばれ、アメリカ物理学会のアウトリーチ雑誌PhysicsのViewpointでも紹介された。奥山は、N=4超対称ゲージ理論の相関関数のラージN展開からD3ブレーンのインスタントンの寄与を見出し、またSYK模型の2重スケール極限を研究し、Hartle-Hawking波動関数との関係を明らかにした。杉本はQCDと等価な弦理論の記述と考えられるホログラフィックQCDを用いて、核子の重力形状因子を計算する方法を開発した。特に、これらがグルーボールの寄与の和の形で書けるという構造を明らかにし、D形状因子の値を評価した。関野は、弦のビットの描像に基づき、ゲージ理論が弱結合の場合のゲージ重力対応の研究を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の最終目標に一つは、従来の反ドジッター宇宙のホログラフィー原理(ゲージ重力対応、AdS/CFT対応)を超えて、現実の宇宙に近いドジッター宇宙のホログラフィー原理を解明することである。今年度の高柳と疋田の研究では、ドジッター宇宙のホログラフィー原理に関する研究が共形場理論の解析接続という手法に思い立ったおかげで、予想以上に早く進展し、3次元という現実よりも低次元ではあるが、明確なホログラフィー対応の具体例を発見することができた。この論文はレター版は、Physica Review Letter誌のEditor's suggestionに選ばれ、国際的に高く評価され、Newswiseなど海外のネットニュースでも取り上げられている。フルペーパーでは、対応する量子エンタングルメントのドジッター宇宙特有の振る舞いも明らかとなった。また、この考えを高柳は研究協力者のHarper氏らとさらに発展させ、時間的エンタングルメント・エントロピーという、従来のエンタングルメント・エントロピーを一般化した量を導入することで、これまで理解が乏しかったホログラフィー原理のおける時間軸の創発が説明できることを見出した。この成果もPhysica Review Letter誌に掲載されて、注目を集めている。このように、本研究のターゲットである量子情報理論を用いた量子宇宙の性質の解明へ向けた大きな知見が2年目の段階で既に得られた。そのほかにも、従来のゲージ重力対応を境界がある場合に拡張したAdS/BCFT対応に関しても量子エンタングルメントの観点から解析が進み、Island/BCFTと呼ぶ新しい双対性が見出された。また奥山は、ゲージ重力対応の非摂動的側面について重要な成果をいくつも得た。以上のように本年度は当初の計画よりも大きく研究が進展した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最重要課題であるドジッター宇宙のホログラフィー原理について、既に得られた具体例に対して、その量子情報理論的な性質をさらに掘り下げて、宇宙がどのように量子情報から創発しているのか、その基礎的なダイナミクスを探りたい。このために考えられる一つの方向性は、ドジッター宇宙を半分に分けて、時間的な境界を導入することである。これによって、従来のゲージ重力対応に類似したホログラフィー対応を考えることができ、エンタングルメント・エントロピーも極小曲面の面積として明確に計算することができる。これによって、エンタングルメント・エントロピーの時間発展をドジッター宇宙の時間発展とみなすことができ、その重力理論のダイナミクスを量子情報量から理解することができる。また、これと相補的に量子宇宙を厳密に解ける模型として行列模型やJT模型の立場からも解析を続けていきたい。
2022年度の研究で導入された時間的エンタングルメント・エントロピーは、擬エントロピーと呼ばれる量の特別な場合に相当する。擬エントロピーはエンタングルメント・エントロピーの自然な拡張で、ゲージ重力対応で幾何学的に計算することができる。その反面、量子状態の量子エンタングルメントの量という解釈は難しい。逆に、量子エンタングルメントの量を表すことを尊重して、エンタングルメント・エントロピーを始状態と終状態に依存するように拡張した量はあるのか。という疑問が生じる。最近、量子情報理論の研究者であるPARZYGNAT氏と進行中の共同研究でその良い候補を発見したので、この新しい量の性質を解析したい。
AdS/BCFTはゲージ重力対応と量子情報の関係をより深く理解するために重要な模型である。今年度の研究でスカラー場のダイナミクスが測定誘起相転移と関連する示唆がえられたので、今後はより一般の背景で解析することで、この関係の妥当性を見出したい。
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