研究領域 | 極限宇宙の物理法則を創る-量子情報で拓く時空と物質の新しいパラダイム |
研究課題/領域番号 |
21H05189
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
白水 徹也 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (10282716)
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研究分担者 |
吉野 裕高 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (20377972)
小林 努 立教大学, 理学部, 教授 (40580212)
棚橋 典大 中央大学, 理工学部, 助教 (50581089)
野澤 真人 大阪工業大学, 工学部, 講師 (60547321)
泉 圭介 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 講師 (90554501)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 高次元宇宙モデル / ゲージ・重力対応 / ブラックホール / 反deSitter時空 / 修正重力理論 |
研究実績の概要 |
本班では宇宙の始まりやその加速膨張の起源の解明、そしてブラックホール内部の構造の基礎研究に関して、高次元および4次元時空の両面から取り組んでいる。今年度は以下の結果を得た。 (i)AdS/BCFT対応関係は高次元宇宙モデルであるブレーンワールド系とAdS/CFT対応の設定との接合系とみなすことができる。我々は線形化されたEinstein方程式を適切な境界条件のもとで解き、CFTのエネルギー運動量テンソルを求めることでAdS/BCFTの正当性を確認することができた。(ii)正エネルギー定理の証明の高次元的定式化を試みた。具体的には、仮想の高次元時空の中の極小曲面で実現される4次元の模擬宇宙を考え、その模擬宇宙の全エネルギーが我々の宇宙の全エネルギーよりも小さくなることを示し、非負であることを証明した。(iii)Penroseの重力崩壊に対する特異点定理を巧みに膨張宇宙に適用することで、宇宙に量子重力などの効果により初期特異点が存在しない場合、観測する外側の領域は有限の体積を持ち、そのサイズには観測される領域の膨張率で決まる上限が存在することを示した。(iv)観測者が存在すると考えられる時空の無限遠方近傍における光の軌道について解析を行った。特に今年度はわずかに内向きに発する光も含めた場合について扱った。その結果、一般にはすべての光が無限遠方に到達し、観測できるわけではないことがわかった。(v)強弱に寄らず重力を検知する面(重力検知面)の提案、並びにその面積不等式の証明がなされた。(vi)2つのテンソルモードをもち、余分なスカラーモードが存在しない一般的な修正重力理論において宇宙論的摂動論を扱い、宇宙背景輻射の揺らぎの数値コードを活用した理論計算を行った。その結果、理論のパラメータに太陽系や重力波伝搬よりも強い制限が得られることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
量子重力理論の一つのモデルとして注目されているブレーンワールドとAdS/CFT設定の接合系の解析は本研究テーマの主題に沿ったものである。それには、Einstein方程式の取り扱いに熟練した研究者と場の理論に精通した研究者との共同研究が不可欠である。今年度、異なる分野の研究者の協力により、実現することができた。一方、量子重力理論は一般相対論からのずれを予言しており、その観測的検証に向けた基礎研究も順調に進んでいる。具体的には、ある重力理論に対して強い制限を与えることに成功した。 量子情報との関連では、高次元時空における極小曲面が重要となるが、それが我々の住む時空の安定性に直結している可能性を指摘できたことは想定外の結果であった。
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今後の研究の推進方策 |
他分野との協調を図りながら、具体的には以下の研究に取り組む。 (i)量子カオスの新たな指標として提案されたKrylov複雑性の性質を古典・量子ビリヤード系で解析。(ii)4次元時空におけるEinstein方程式の真空解として、宇宙紐によって加速されたブラックホールのペアを表すC計量と呼ばれる解が知られている。我々はポテンシャルを持ったファントムスカラー場が存在する場合のC計量を構築し、漸近的AdSワームホールを加速させた時空であることを明らかにする。(iii)強弱に寄らず重力を検知する面(重力検知面)に対する面積不等式の証明を高次元の場合に拡張する。また、重力検知面の膨張宇宙への応用を行う。 (iv)帯電ブラックホールに静的摂動を加えた時空を調べ、非球対称な光子面が存在しうることを示す。(v)量子重力理論の有効理論の一つとして考えられているHorava-Lifshitz重力のような、楕円型方程式に従うスカラー自由度を含む一般的な重力理論のニュートン極限を調べ、実験・観測による検証可能性を議論する。(vi)初期特異点の無い宇宙についてエントロピーの最大量に関する性質を解析し、エントロピーに基づく特異点定理と従来の幾何学的な特異点定理との差異を明らかにする。
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