研究領域 | 超温度場材料創成学:巨大ポテンシャル勾配による原子配列制御が拓くネオ3Dプリント |
研究課題/領域番号 |
21H05195
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
森下 浩平 九州大学, 工学研究院, 准教授 (00511875)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 結晶成長 / マイクロダイナミクス / レーザー溶融 / Additive Manufacturing / 放射光 / その場観察 |
研究実績の概要 |
初年度は,Cu,Ti,Ti6Al4V合金,SUS316L合金およびNi基超合合金の粉体およびそれらとAl,Al-Cu合金のバルク体を対象にレーザースポット照射による溶融挙動と粉体の動きを放射光X線イメージングを駆使し,高時間分解でその場観察した.また,バルク体へのレーザー照射により液相流動の可視化および凝固速度の変化について検討した. Alのバルク体へのレーザー照射に伴う固液界面位置の変化を追跡した結果,レーザー照射停止から凝固完了までの2.3 msの間に0.25 m/s程度の凝固速度で成長する様子を観察できた.レーザー照射条件と溶融池サイズ,凝固速度の間に相関がみられたため,今後m/sオーダーの凝固速度の観察が可能な条件を詰めていく. Ti合金では他の合金系とは異なり,レーザー照射による溶融地の拡大過程において液相が飛散し,凝固過程を観察するに至らなかった.一方で液相表面が激しく揺動することと表面形状の急激な凹み,それによる液相の跳ね上げ等,3DP造型体に見られる欠陥の一種であるスパッタに関し実証的な知見を得た. Ni基超合金の観察からは,溶解前組織の濃度不均一(ミクロ偏析)を溶融池の淵に沿って掃き集めるような液相流動が観察され,濃度不均一が凝固後にも保存されることが明らかとなった.さらにTaC粒子をトレーサーとして用いて観察した結果,溶融池の濃度不均一と対流との間に強い相関があることが明らかとなった. 金属粉体へのレーザー照射によって溶融地が形成される際,Cuにおいては溶融池が粉体を顕著に引き寄せるのに対し,他の合金系では溶融初期とその後で溶融池の成長の様式が異なることが示唆された.ただしいずれの場合でも溶融池の拡大過程には異なる機構が主となる3段階のステージが存在することが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は「巨大ポテンシャル勾配下における急速溶解・急速凝固のマイクロダイナミクス」を明らかにすべく,現有のその場観察手法を駆使し,AlおよびAl-Cu合金,TiおよびTi-6Al-4V合金,Ni基超合金, SUS316L合金,Cuの板材および粉体を対象にレーザースポット照射による急速溶解・急速凝固現象の放射光X線イメージングによるその場観察を実施した. Alの急速凝固では0.25 m/sの凝固速度を観測したが絶対安定が発現すると考えられるm/sオーダーの凝固速度を実現するには照射条件の見直しが必要である.一方でAl-Cu合金の組成をふることにより,凝固速度と初晶率の関係を二次元的ではあるが導出することが可能である.Ti合金では他の合金系とは異なり,レーザー溶融中の液相表面が激しく揺動することで液相自体がスパッタ状に飛散することが明らかとなった.Ni基超合金の観察からは,溶解前組織の濃度不均一(ミクロ偏析)を溶融池の淵に沿って掃き集めるような液相流動が観察され,濃度不均一が凝固後にも保存されることが明らかとなった. これらに加えて金属粉体の移動現象を観察した結果,溶融地の拡大過程には3つのステージが存在するという仮説が考えられた. 一方,「実証的データを獲得するためのその場観察手法の確立・発展」については世界的な半導体不足の影響により調達予定であった500Wファイバーレーザーとガルバノスキャナの導入が遅れている.これらは2022年7月に導入完了予定.
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今後の研究の推進方策 |
金属3Dプリンティングと同等のレーザー走査速度を可能とするガルバノ光学系と,その走査速度での溶解を可能とする高出力レーザーを放射光X線イメージングが可能な装置へと組み上げるとともに,その場観察と同時に透過ラウエ回折点を用いたその場ひずみ測定を試行する.また,凝固速度だけでなく凝固形態の観察の可能性を検討する為,拡大光学系と可視光変換素子との分解能トレードオフについて検証を進める. 金属粉体と金属基盤へのレーザー照射における急速溶解・急速凝固現象のその場観察を進め,溶融池スケールでの溶解・凝固挙動を実証的に明らかにすることを目指す.各粉体および基盤(鋳造まま材・積層造形材)の溶融挙動,溶融池の形成・成長挙動,溶融池と粉体の相互作用,溶融池内での凝固挙動等のマイクロダイナミクスを,レーザーをスポット照射した系に対して定量的に明らかにする.特に基盤の溶融挙動はA01班のシミュレーションおよび組織解析との連携を進める.また,溶融池境界における残存相からの結晶成長が存在するのかについて明らかにする.TiおよびTi合金,ステンレス鋼,CuおよびCu合金やAl-Si合金等を観察対象に用い,合金種に依らず統一的に急速溶融挙動を説明できるモデルを確立するための基盤データを獲得する. また,造型体だけでなく,複数回あるいは複数個所へのレーザー照射による溶融・凝固挙動のその場観察を実施することで,既造型領域と溶融池との相互作用の検証を進める必要がある.それらの理解の為にも既造型層の表面凹凸を素視化したモデル,コーティング・熱処理により表面物性を位置によって変化させたモデル試料を用い,意図的に欠陥を形成させ得るかについてその場観察を試行する.
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