研究領域 | 超温度場材料創成学:巨大ポテンシャル勾配による原子配列制御が拓くネオ3Dプリント |
研究課題/領域番号 |
21H05196
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
佐藤 和久 大阪大学, 超高圧電子顕微鏡センター, 准教授 (70314424)
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研究分担者 |
趙 研 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00633661)
水野 正隆 大阪大学, 大学院工学研究科, 准教授 (50324801)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 巨大温度勾配 / 3Dプリント / 電子顕微鏡 / 中性子回折 / 陽電子消滅 |
研究実績の概要 |
(1)SUS316L鋼PBF材の微細組織と溶質偏析の電子線構造解析 SUS316L鋼LPBF材のYZ面をSTEM-EDS元素分析した結果、セル境界での溶質偏析が明らかになった。Feマップを詳細に解析すると、溶融池底部においてセル間隔が広がっている箇所が観察された。これは冷却速度の低下に起因すると考えられる。さらに、溶融池境界直上にセル状組織のない領域が存在することが判明した。冷却速度の低下により、溶融池境界直上において平滑界面成長が生じたと推察される。本年度は3次元構造解析に向けて連続傾斜像の撮像も行い、高傾斜時の画像コントラストに関して観察条件や試料形状の最適化が必要であることなどが判明した。 (2)SUS316L鋼PBF材の中性子回折法による内部残留応力評価 J-PARC BL19に設置された工学材料回折装置「TAKUMI」を用いて応力成分を解析した結果、角柱材の内部には、数100 MPaもの圧縮残留応力が形成されていることが明らかとなった。PBF材の内部残留応力の形成には、溶融部の引張残留応力ではなく、その周囲の圧縮残留応力の積算が影響していると考えられる。残留応力は異方性を示したが、これはLPBF法特有の深い溶融池形状に由来するものと考えられる。 (3)SUS316L鋼およびTi-15Mo-5Zr-3AlPBF材の陽電子消滅法による格子欠陥の解析 LPBF法で作製したSUS316L鋼およびTi-15Mo-5Zr3Alについて陽電子消滅法により格子欠陥の解析を行った。SUS316L鋼では格子欠陥が存在しない場合の陽電子寿命値107 psよりも50 ps程度長く、走査速度が速くなると陽電子寿命が長くなること、Ti-15Mo-5Zr-3Alでは格子欠陥が存在しない場合の陽電寿命値143 psと同程度であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共通試料であるSUS316L鋼およびβ型チタン合金L-PBF材を対象として、(1)SUS316L鋼PBF材の微細組織と溶質偏析の電子線構造解析、(2)SUS316L鋼PBF材の中性子回折法による内部残留応力評価、(3)SUS316L鋼およびTi-15Mo-5Zr-3Al PBF材の陽電子消滅法による格子欠陥の解析、の3点について領域内で連携を図りながら研究を行い、おおむね計画通りの成果を得たため。
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今後の研究の推進方策 |
(1)超高圧電子顕微鏡によるPBF材の内部組織観察 透過電子顕微鏡を用いて、SUS316L鋼LPBF材の内部組織を観察し、3DPに特有の溶融池形状を反映した微細組織観察と溶質偏析の解析を実施する。前年度に引き続き、最新CMOSカメラを活用して高解像度・高コントラストな電顕画像取得を試みる。今年度は、得られた微細組織と組成・介在物分布をもとに、溶融池近傍内部組織の3次元画像化に取り組む。連続傾斜像撮像に際し、高傾斜時の高コントラストと投影要件の確保の2点に着目して、最適試料形状を探索し、観察手法を確立する。 (2)中性子回折による応力場・歪場の定量評価と微細組織解析 様々な造形条件にてPBF法で作製したSUS316L試料について、J-PARCにおける中性子回折実験により試料内部の弾性ひずみ分布を測定し、その内部残留応力分布を調査する。特に、X方向のみのスキャンを積層する場合とX方向とY方向のスキャンを交互に積層する場合の差異に着目することで、積層にともなう残留応力の発達過程を明らかにする。 (3)陽電子消滅法による格子欠陥の検出 SUS316LにおいてPBF法により導入される格子欠陥に及ぼす走査速度の影響を明らかにするため、走査速度を変化させたPBF材について等時焼鈍による陽電子寿命の変化を調べることにより、格子欠陥の回復温度、種類、濃度を決定する。また、他のプロセス条件や通常の方法で製造された試料に導入される格子欠陥との比較を行いPBF法により導入される格子欠陥の特徴を明らかにする。
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