研究領域 | Slow-to-Fast地震学 |
研究課題/領域番号 |
21H05205
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加藤 愛太郎 東京大学, 地震研究所, 教授 (20359201)
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研究分担者 |
矢野 恵佑 統計数理研究所, 数理・推論研究系, 准教授 (20806070)
松田 孟留 東京大学, 情報理工学系研究科, 准教授 (50808475)
中野 優 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海域地震火山部門(火山・地球内部研究センター), 主任研究員 (40314041)
内出 崇彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 上級主任研究員 (80713049)
小寺 祐貴 気象庁気象研究所, 地震津波研究部, 研究官 (80780741)
三井 雄太 静岡大学, 理学部, 准教授 (80717950)
内田 直希 東京大学, 地震研究所, 准教授 (80374908)
武村 俊介 東京大学, 地震研究所, 助教 (10750200)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | Slow地震 / 地震カタログ / Slow-to-Fast地震現象 / 情報科学 / 地球物理学 |
研究実績の概要 |
教師なし学習によって、ラベルの付いていない連続波形記録からテクトニック微動を自動検出する手法を開発した。周波数特性と隠れマルコフモデルを仮定した時間的遷移を特徴量としたところ、人の手で作成されたカタログと比較して8割以上の検出率が得られることが分かり、同特徴量の有効性が明らかになった。また、スロースリップの自動検出プログラムを公開するとともに、同手法の汎用性を高めるために、データ欠損を考慮した手法の改良および主成分分析やテンソル分解を用いたノイズ低減法に関する手法検討を進めた。断層すべりの時空間発展を詳細に捉えるため、物理シミュレーションデータを活用した深層学習手法の開発を新たに行なった。さらに、紀伊半島沖のDONETデータにベイズ振動子分解を適用した結果、浅部超低周波地震などに対応する振動子が存在することを示した。東北沖のS-net海底地震観測網のデータに機械学習を用いた自動読み取り手法を適用し、海底下で起きる多数の小地震の検出に成功した。 西南日本全域において微動震源の移動現象を客観的に抽出し、マイグレーションが同じ場所で繰り返し発生する傾向があるといった時空間発展の特徴を明らかにした。また、南海トラフ沿いの浅部超低周波地震カタログの整備に加え、超低周波地震活動の走向方向の変化から間隙流体圧などの地域性について考察した。さらに、大規模なスロースリップイベントの発生域では、プレート内の地震活動度が高く、かつ低重力領域と概ね対応していることを示した。繰り返し地震探索プログラムの開発を進め、グローバルな公開データを用いた探索手順について検討した。日本全国の内陸部で発生したfast地震の震源スペクトル解析により、震源過程の複雑性を定量化した。DAS観測に関しては、走向の異なる2つの光ファイバーを同時に使用してSlow・Fast地震の観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スロースリップの自動検出プログラムの公開や、機械学習による地震シグナル判別の論文化、カタログの構築など、全体として順調に成果が挙がっており、研究は概ね順調に進展しているといえる。教師なし学習に関しては、様々な時系列データの周波数構造などを均一に定量化する特徴量の調査に着手でき、地震カタログとの比較を通じて性能評価も実施できた。また、来年度に本格的に実施予定のテクトニック微動の教師あり分類に関して、データセットの作成にも取り組めた。構築したカタログの整理(カタログ内のデータ間の依存関係を捉える)に資する統計モデルの開発を進めており、カタログの有効利用に向けて今後の進展が期待される。ノイズレベルの高いハイレートGNSSデータを適切にデータ処理することにより、既存のSlow地震~Fast地震を繋ぐ時間領域におけるシグナル検出を行う手法の開発が進んでいる。また、機械学習に基づく時系列データのノイズ処理に関する基礎的検討にも着手している。地震計で観測されるスロー地震の長周期成分の震源特性を詳細に把握することに成功するとともに、Fast地震の震源スペクトルの複雑性の整理を行った点は、今後のスケーリング則の解明に繋がる成果である。また、西南日本全域で微動マイグレーションの抽出とその空間的な特徴を網羅的に把握することで、DAS観測に関しては、次年度以降は、島嶼部火山でのDAS観測を予定しており、その準備として設備利用に関する交渉を進めている。今年度は、走向の異なる2本の光ファイバケーブルを同時に用いて、SNの良い測定モードでSlow・Fast地震の観測に成功した点は評価に値する。
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今後の研究の推進方策 |
Slow地震・Fast地震をデータ駆動的に抽出するための手法開発を継続する。教師あり学習を用いてテクトニック微動の活動様式の分類や特徴抽出を試みる。スロースリップ等の他の現象の活動パターンに応じて微動の波形記録の教師あり分類を実施することで、隠れた微動の活動様式・特徴を明らかにする。さらに、状態空間モデルに基づいたベイズ統計手法(データ同化)や独立成分分析手法の開発、欠損の多い過去の期間やノイズレベルの高い地域における地震の網羅的検出手法の開発を進める。ハイレートGNSSなどの測地データに関しては、統計的解析・機械学習を用いてSlow地震あるいはSlow~Fast地震を繋ぐ領域におけるシグナル検出や特性化を試みる。また、物理シミュレーションと融合した深層学習器について引き続き開発検討を行う。その際、領域内外の研究者との議論を通じて地震・測地データ解析に有用な数理手法の考案を目指す。西南日本における広帯域地震観測及び深部超低周波地震・低周波地震のカタログ構築を継続する。微動マイグレーションの抽出と整理を通して微動の物理的背景に関する知見を深めるとともに、カタログ整理に資する統計的手法の開発を進める。また、深層学習モデルを海域・陸域の地震観測網の波形データに適用し、震源再決定やテンプレートマッチングを通してSlow地震・Fast地震のカタログ構築を進める。その際、深層学習により地震波形記録からノイズ成分を除去することで微弱なSlow地震信号の検知を試みる。世界の繰り返し地震探索プログラムについて、実フィールドの波形データへの適用試験を行い、その性能および要改善点について確認する。超低周波地震帯と微動帯の震源時間関数の同時推定手法を開発し、地震学的Slow地震の広帯域震源スペクトル特性の理解を深めるとともに、Fast地震のスペクトル解析も行うことで地震現象全体のスケーリング則について調べる。
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