研究領域 | デジタル化による高度精密有機合成の新展開 |
研究課題/領域番号 |
21H05208
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大嶋 孝志 九州大学, 薬学研究院, 教授 (10313123)
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研究分担者 |
森本 浩之 九州工業大学, 大学院工学研究院, 准教授 (20593867)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 化学選択性 / 触媒制御 / ベイズ最適化 / 官能基評価キット / デジタル創薬 |
研究実績の概要 |
本計画研究では、革新反応開発に機械学習を徹底活用(実験科学と情報科学の異分野融合)することで、化学選択性の触媒制御法開発の超加速を実現し、その基礎となる官能基標的触媒を網羅的に創出することを目的として研究を行なっている。具体的には、主に以下の検討で研究成果を上げた。 ・先に化学選択的なカルボン酸のα-重水素化反応の開発に成功していたが、カルボン酸から酸無水物中間体を減る活性化機構であったため、エステルやアミドを基質として用いることができなかった。それに対し、新たな触媒系を設計することで、α位の酸性度とは逆に、カルボニル基のルイス塩基性の高さに依存するα-重水素化反応の開発に成功した。これにより、従来の化学選択性を逆転させることに成功し、エステル存在下でのアミド選択的なα-重水素化反応が可能となった。現在、生体内での安定性や活性試験も行っており、これらの結果を合わせて発表する予定である。 ・総括班で準備した官能基評価キットを活用し、新たに5つの反応の化学選択性の網羅的な評価を行った。ヒドラジンを求核剤として用いるアミド結合切断反応に関する評価を行う中で、添加剤として用いたカルボン酸が反応の加速効果を有することを見出し、さらに広範な酸性添加剤のスクリーニングを行うことで、触媒量のルイス酸添加で大幅に反応性を向上させることに成功した。これらの結果は、官能基評価キットが、新反応開発のきっかけを見出す上でとても有用なツールであることを示すものである。 ・N-無保護ケチミンに対する触媒的不斉求核付加反応のエナンチオ選択性の向上のために、機械学習(ベイズ最適化)による不斉触媒の構造最適化の手法構築を行なった。DFT計算によって得たパラメーターも特徴量として組み込んだ手法を構築し、不斉触媒の設計、合成、検証を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
R5年度は、昨年度までの検討結果をもとに、引き続き(1)から(5)の項目の検討を行った。(1)化学選択的触媒反応において連続型変数のベイズ最適化を中心に検討し、反応条件最適化の効率化を図る。また、離散型変数、特に溶媒効果に関して様々な機械学習の手法を検討し、その手法を確立する。(2)総括班で準備した官能基評価キットを活用し、化学選択性の網羅的情報収集を行う。反応の種類を拡張するとともに、見出した正の添加効果に関して精査し、新たな触媒系の開発につなげる。(3)計算科学と情報科学を融合させ、先に開発した不斉触媒反応の主制御因子の顕在化を行う。(4)現在進めているデジタル創薬に関する共同研究を推進する。特に、機械学習によって提案された創薬リードの合成と生物活性評価を推進する。(5)エステル交換反応、分子内環化反応、電解フロー反応などのフロー反応での最適化を行う。 (1)から(3)に関しては、【研究実績の概要】に記載した通り、実績を上げることができた。また、フロー電解反応のベイズ最適化による反応条件最適化に成功した。(4)に関しては、A03班の宮尾らとの国際共同研究を実施している。提案された化合物の合成を行い、その中から新たな分子骨格を有するリード化合物を見出すことに成功し、本手法の有効性を実証することができた。(5)に関しては、エステル交換反応の固相担持型触媒の触媒活性を大幅に向上に成功し、フロー反応に適用した場合も、触媒活性を長時間維持させることに成功した。カイニン酸の連続フロー合成の開発では、分子内エン環化反応を含め、大部分の反応のフロー化に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
R6年度も引き続き、【現在までの進捗状況】に記載の(1)から(5)の項目の検討を行う。 (1)連続型変数のベイズ最適化の対象となる反応をさらに広げ、多変数の反応条件最適化の効率化を実践する。離散型変数である溶媒効果に関して、A02班の間瀬らとともに、少ない実験回数で最適溶媒を見出すことを目的とした機械学習の手法の構築を行う。すでにいくつかの手法の検討と実証を共同研究として勧めており、その有用性・有効性を実証する。(2)さらに多くの反応に対して、官能基評価キットを活用し、化学選択性の網羅的情報収集を行う。また、これまでの検討の中で、これまで報告されていない官能基の選択性・反応性も見出されており、それらの反応の一般性の検証も合わせて実施する。(3)引き続き機械学習に用いる特徴量の創出のため、触媒や溶媒などのDFT計算を活用していくが、新たにGRRMを用いた遷移状態計算を活用することで、遷移状態探索が困難であった反応に対しても遷移状態の構造を用いた機械学習の検討を行う。(4)新たな骨格を有するリード化合物を見出すことに成功したため、さらなる誘導体合成とin vivo試験を行うための大量合成を行う。また、新たに得られた構造活性相関のデータをくみこむことで、深層学習の制度をより上げることが可能であり、現在、新たな化合物の提案にすすんでいる。(5)カイニン酸合成において残された工程のフロー化を進める。また、エステル交換反応の固相担持型触媒に関しては、その詳細な反応機構解析を行うとともに、固相担持型触媒の合成における変数と活性(活性と耐久性)を機械学習を用いて最適化を行う。 これらの研究をさらに強力に推し進めるため、新たに分担者として古舘信(福岡大学)、田上拓磨(九州大学)、梅野圭太郎(九州大学)を加え、研究体制の強化を図る。
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