研究実績の概要 |
有機合成において、その反応系の構築には様々な要因が絡み、無数の組み合わせが存在する。触媒種の構造だけでも多様な候補があり、またそれぞれの示す反応性、選択性との相関は興味深い結果を与えるが、その解釈は時には難解である。我々が最近見出した、芳香族/脂肪族を見分ける触媒反応は、反応形式としては斬新であるが、その制御因子はいまだ不明である。すでに数十の触媒および反応条件と反応結果の相関を有していたことを活用し、そのデータを機械学習により解析したところ、ある関数のもとで比較的高い直線関係が得られた。このデータをもとに、まだ合成していない架空の触媒構造の選択性を予想し、高い選択性が期待できる化合物で、かつ合成可能な構造を有する触媒を合成した。実際に反応に用いたところ、これまでで最も高い選択性を与えた。さらなる高選択性をもとめて、その誘導体を合成して試したところ、選択性の向上が見られた。こららの結果から、この選択性に関わる因子を考察し、また計算科学の知見をもとにその原因を精査した。その結果、これまで予期していなかった相互作用が触媒と基質の間で発生していることがわかってきた。 また、オレフィンの酸化的官能基化において、1,1-位にヘテロ原子を導入する反応はこれまで知られていなかったが、最近我々の見出した特殊な構造を有する超原子価ヨウ素がその反応を進行させることがわかっていた。そこで、この誘導体を数種類合成し、その結果と構造の相関を機械学習により解析したところ、ある関数のものとで、よい直線関係が得られた。この関係をもとに、新しい超原子価ヨウ素の構造を提案し、機械学習により高い選択性を与える構造を提案し、実際に合成した。その結果、たいへん高い効率と選択性でオレフィンの酸化的1,1-ヘテロ原子官能基化が進行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
機械学習を活用した有機合成反応において、2つの反応系について検討した。 (1)芳香族/脂肪族を見分ける選択的反応触媒の開発 以前我々が報告した選択性を上回る触媒の開発をめざしているが、その設計指針が不明であるため、これまで得られた触媒構造と選択性の相関データを活用した機械学習により、その設計指針を得た。高選択性が予想される構造の触媒を実際に合成し反応に用いたところ、複素芳香環を反応場周辺に配置した触媒が高選択性を与えた。さらにこの構造の修飾を行い、ある程度の選択性の向上が見られた。また、フローリアクターの系を活用することで、触媒種と基質の接触割合を調整でき、飛躍的に選択性が向上した。このように、機械学習で得られた構造をもとに、その後の有機合成やプロセスの検討をくわえることで実用的なレベルにまで一気に選択性が向上したことは、当初の予想を超える結果である。 (2)オレフィンの酸化的1,1-ヘテロ原子官能基化 オレフィンの酸化的な官能基化は付加型で起こるため、1,2-位に新しい原子が導入される形が通常である。一方で、1,1-型はこれまで特殊な基質(分子内反応を利用)でしか知られておらず、オレフィン/反応剤A/反応剤Bの三成分系の酸化的1,1-ヘテロ原子官能基化反応は未知であった。最近我々の見出した特殊な構造を有する超原子価ヨウ素がその反応を低収率ながら進行させることがわかっていたため、その数種の誘導体の合成と反応結果を得ることで、機械学習による解析を行った。そこから、構造の設計指針が得られ、その指針をもとに新しい構造の超原子価ヨウ素を構造し反応を検討したところ、従来を超える収率と選択性でオレフィンの酸化的1,1-ヘテロ原子官能基化が進行した。この結果は、反応系が新しく、また機械学習でしか見出せない設計による反応剤の創出を含んでおり、当初の予想を超える結果が得られたと評価できる。
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