研究領域 | デジタル化による高度精密有機合成の新展開 |
研究課題/領域番号 |
21H05224
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
矢田 陽 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (70619965)
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研究分担者 |
椿 真史 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 情報・人間工学領域, 研究員 (80803874)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 有機合成 / 触媒設計 / 機械学習 / 逆解析 / 予測モデル |
研究実績の概要 |
本研究課題では、革新反応開発を超加速化するための触媒設計技術を実験化学者が利活用しやすい形で提供することを目標とし、触媒自動設計システムを開発する。具体的には、(1)データ駆動型分子記述子の生成と回帰モデルの構築、(2)回帰モデルの逆解析による特徴ベクトルの生成、(3)触媒構造の生成モデル構築、(4)合成経路設計技術による候補触媒の合成可能性の判断、の4つの研究開発により各要素技術を確立し、それらをシームレスにつなぎ合わせた情報科学駆動型触媒自動設計システムの開発に取り組むものである。また、本自動設計システムの稼働・性能検証や、実験化学者向けのグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)の開発などにも取り組む。 今年度は、データ駆動型分子記述子の生成に関する研究開発に取り組んだ。本研究代表者と研究分担者は、すでに転移学習を活用した触媒 反応の収率予測技術の開発に成功している(論文投稿準備中)。当該技術では、分子の3次元構造(原子番号と原子間距離)を入力として、物理化学と融合した情報科学駆動型の分子記述子生成を実現している。本研究課題では、三次元構造のみならず、原子間相互作用をエンコードしたクーロン行列(Phys. Rev. Lett. 2012, 108, 058301.)や多体テンソル表現(arXiv:1704.06439)を活用した情報科学駆動型分子記述子作成を実施するため、分子構造からクーロン行列や多体テンソル表現を計算するための基盤構築が完了した。今後は、他の表現方法なども含めて、本研究開発に最適な分子表現方法について検討を進めていく。 また今年度は、本領域内の他計画班との共同研究にも精力的に取り組んだ。具体的には、A01班大嶋グループおよびA03班松原グループとの共同研究を実施し、不斉触媒反応の配位子設計や、バッチ反応結果からフロー合成の反応条件最適化のための機械学習法に関する研究開発を推進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、データ駆動型分子記述子の生成のための基盤構築に主に取り組んだ。研究開発が始まって半年ではあるが、さまざまな検討を進めることができ、さらに領域内の他の計画班との共同研究も実施するなど、精力的に研究開発に取り組むことができた。今後、論文化につながる成果等が着実に得られている。今年度推進した研究によって得られた知見は、今後の領域研究でも大いに活用できるものであると考えている。以上のことから、「概ね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、触媒反応の予測モデルの逆解析による開発候補となる触媒の特徴ベクトルを生 成させる技術を開発する。一般的な逆解析は、予測モデル(y=f(x))を活用して候補となる触媒分子 全てに対して予測値(y)を計算し、予測結果から良好なものを選ぶ“擬似的”逆解析である。本研究では、所望する触媒反応の性能(y)から、それを達成する確率の高い触媒分子の特徴ベクトル(x)を 推定する“直接的”逆解析法の開発を目指す。機械学習分野ではモデルの逆解析技術(探索アルゴリズム)として、ベイズ最適化や遺伝的アルゴリズム、粒子群最適化、混合ガウス回帰などがすでに知られており、それらアルゴリズムの実装と性能検証を行う。A03班宮尾グループは、定量的構造活性相関 (QSAR)モデルの逆解析による化学構造提案に関する開発経験を有している(J. Chem. Inf. Model. 2016, 56, 286.)ため、技術指導を受けながら開発を進める予定である。 また、領域内計画班との共同研究を引き続き進めていくと同時に、公募班の参画に伴って新規共同研究も推進していく予定である。
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