研究領域 | 生物を陵駕する無細胞分子システムのボトムアップ構築学 |
研究課題/領域番号 |
21H05229
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
川野 竜司 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90401702)
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研究分担者 |
川村 出 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (20452047)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | De novo設計 / 人工細胞膜 / ナノポア計測 / 固体NMR |
研究実績の概要 |
本研究では、天然には存在しない人工の細胞膜をボトムアップ的に設計(de novo設計)し、一分子計測や環境中で作動するマイクロロボットの開発を行う。具体的には、これまでリン脂質で構成されてきた脂質二分子膜部分を両親媒性の人工分子に置きかけ、より高機能な人工細胞膜を構築する。そこに人工的に設計した膜輸送体の組み込みを目指す。例えば、de novo設計したアミノ酸配列のペプチドを、細胞膜を構成する脂質二分子膜中に埋め込むことで、標的分子を検出可能なナノポア(ナノ細孔)や、脂質膜内外の物質輸送を制御可能な膜輸送分子を開発する。また、これら構築したペプチド-脂質膜を分子同士で作るシステムとみなし、進化工学と組み合わせ探索による複数の分子で構成された分子システムの最適化のための学理を構築する。応用例とし、ナノポアによる一分子計測に展開する。ナノポア計測はナノサイズのポアを形成する膜タンパク質による一分子計測法であり、最近DNAナノポアシーケンサが実用化され$1000ゲノム計画実現の一翼を担った。これまで申請者は、タンパク質よりも安定で簡便に化学合成可能なペプチドのアミノ酸配列をde novo設計し、一分子ナノポア計測に成功している(Nature Nanotech. 2022)。様々な標的分子検出可能なナノポアを創出するためには、ペプチド変異体を網羅的に合成し、ペプチド同士、ペプチド;脂質の相互作用を評価・探索する必要がある。本研究では無細胞発現系を利用し、膨大な変異体ライブラリから進化工学・組み合わせ探索により、望みの一分子計測に資する超越ナノポア分子システムを創出する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年9月に研究を開始し、約半年の間に研究推進のための基盤構築を行った。月一度の総括班会議を通し、領域の運営、計画班同士の共同研究について打ち合わせを継続している。具体的にはB02班と進化工学による膜ペプチドのセレクションについて、実験方法の検討に入っている。D01班とは膜輸送体分子と二分子膜構成分子との組み合わせ最適化について議論中である。またB01班とは新規のβバレル膜タンパク質の発現精製について検討を進めているところである。これらの共同研究に伴い、新規の研究設備の導入、研究員さんのプロモーションなどを行っている。また第一回目の領域会議を開催し、領域のニュースレター発行の準備、公募班を加えた第二回目の領域会議、それに合わせた若手の会を企画中である。 分担者の川村グループでは、細胞膜分子システムの固体NMR構造解析アプリケーションとして冷却ユニットの導入とセットアップを完了させ、幅広い条件での膜タンパク質NMR測定実験を可能とした。また、細胞膜分子システムの構築に資する自己組織化ジペプチドの設計と熱刺激応答性ハイドロゲルや圧電応答などの物性の解析を行った。さらにこれらの研究基盤をもとに領域内共同研究の検討を行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、両親媒性高分子を用いた人工二分子膜の構築と、そこへの膜輸送体・ナノポア分子の再構成を行う。具体的には、ドラッグディスカバリー分野で開発が進んでいる、両親媒性のジブロック、トリブロックポリマーを平面膜として構築し、天然や人工の膜輸送体のイオン輸送活性の評価、および膜中の分子構造を固体NMRにより評価する。またペプチドや膜タンパク質ナノポアに関しては、進化工学及び組み合わせ最適化により、高機能なポアのセレクション手法確立を目指す。分担者の川村グループでは、細胞膜分子システムの反応場である水和膜環境における複雑系分子システムに対する固体NMR実験条件の検討を進める。
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