研究領域 | 2.5次元物質科学:社会変革に向けた物質科学のパラダイムシフト |
研究課題/領域番号 |
21H05234
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
宮田 耕充 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (80547555)
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研究分担者 |
町田 友樹 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (00376633)
松本 里香 東京工芸大学, 工学部, 教授 (30338248)
荒井 俊人 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 高分子・バイオ材料研究センター, 独立研究者 (40750980)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 2.5次元物質 / 化学気相成長 / ファンデルワールス接合 / 自己組織化 / インターカレーション |
研究実績の概要 |
2022年度は、2.5次元集積構造の構築に関する以下の4項目に関する研究を推進した。 [1] 化学気相成長(CVD)と機能開拓:遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)のCVD成長および転写技術の開発を行った。具体的には、高濃度キャリアドープが可能な多層TMDCを利用し、面内接合型PNダイオードの作製を行った。電流・電圧測定より、タイプIIIの半導体ヘテロ接合の形成を確認した。また、CVD合成したTMDCのファンデルワールス転写条件を探索し、高効率かつ複数のTMDCが積層したヘテロ構造の作製手法やそのデバイス化を達成した。 [2] ファンデルワールス集積構造の構築と物性創発:WSe2の伝導体サブバンド準位を利用した共鳴トンネル素子において、トンネルツイスト角度に依存した共鳴トンネル伝導を観測した。ツイスト二層WTe2においてツイスト角度の制御による対称性変化によりバンド構造が変調されることを実証した。 [3] 二次元ナノ空間を利用した新規2.5次元物質の創製:黒鉛へのインターカレーションが難しいNaの多層グラフェンへのインターカレーションを試み、ラマン分光スペクトルでインターカレーションの発生を確認した。また、黒鉛と類似構造をもつグラフェンライクグラファイト(GLG)には、黒鉛とは反応しないMgやAlCl3等が容易にインターレーションすることを確認した。 [4] 有機分子膜の配列制御と機能開拓:有機分子膜の転写技術をもとに分子層の極性を操る方法を試みた。転写法では膜内に欠陥が入ったため、分子に導入する置換基により分子膜層間の相互作用を制御し、極性構造を得ることに成功した。この過程で、分子膜層内の対称性制御が有機半導体の移動度の向上に有効であることを見出した。さらに、柔粘性/強誘電性結晶において、3種類の特徴的な分極ドメイン壁構造が形成されることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、2.5次元集積構造の構築に関する研究は順調に進展している。特に、成膜や転写に関する技術開発が進展し、様々な構造を作製することが可能となった。また領域内の他の班との共同研究を通じ、作製した試料の電子輸送特性、角度分解光電子分光、励起子輸送、トンネル分光転写などの測定を通じて複数の成果を論文として発表した。以上より、計画はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
[1] CVD成長と機能開拓:遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)の化学気相成長(CVD)や転写による積層技術の開発を通じ、多彩な2.5次元集積構造の実現を推進する。特に、2022年度に実現したJanus単層TMDCのヘテロ二層やスクロール構造に着目し、高品質化と物性解明を中心に行う。これらの研究を通じ、モアレ構造、曲率、内蔵電場などの自由度を利用した2.5次元集積構造の集積化と機能化を進めていく。 [2] ファンデルワールス集積構造の構築と物性創発: ファンデルワールス積層による複合原子層構造作製技術を発展させて、量子輸送現象を中心とした物性を解明する。今年度は、PVCポリマーを用いてスリットおよび孔状構造への原子層転写技術を構築するとともに、テープ劈開のメカニズムを解明する。さらに、ツイスト積層TMDCのサブバンドへの共鳴トンネル効果を観測してモアレ格子の影響を明らかにする。 [3] 二次元ナノ空間を利用した新規2.5次元物質の創製:引き続き、3次元物質である黒鉛では難しいNa、Mg、S等のインターカレーションを2次元物質である2層~多層グラフェンを用いての実現を目指す。そのためにも、グラフェンライクグラファイト等の黒鉛類似二次元物質を用い、インターカレーション挙動と結晶構造の関係を明らかにする。さらに、結晶構造の異なる黒鉛系炭素材料をホストに用いた層間化合物の層間物質の相転移温度等を調べ、結晶構造と層間物質の状態の関係性を明らかにする。 [4] 有機分子膜の配列制御と機能開拓:前年度に引き続き、分子層面外・面内の分極を自在に操る技術を確立し、有機半導体や有機強誘電体の電子・光機能の拡充を図る。さらに、有機半導体の高移動度化に向けた薄膜層内の対称性制御も進める。既知材料の結晶構造データベースをもとに半導体骨格に導入する置換基を合理的に設計・選択する方法論を確立し、新規有機半導体の開発を進める。
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