研究領域 | 2.5次元物質科学:社会変革に向けた物質科学のパラダイムシフト |
研究課題/領域番号 |
21H05235
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松田 一成 京都大学, エネルギー理工学研究所, 教授 (40311435)
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研究分担者 |
末永 和知 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (00357253)
西堀 英治 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10293672)
坂野 昌人 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (70806629)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 2.5次元物質 / 分析技術 / 先端分光 / X線回折 / 電子顕微鏡 / 光電子分光 |
研究実績の概要 |
学術変革領域(A)「2.5次元物質科学」において、本分析班(A03班)の役割は、2.5次元物質で発現する特異な構造や電子状態の解明に資する分析手法や技術を開発し、2その学術の発展を支えることにある。具体的には、本班が供する先端分析技術やそこから明らかとなる学術的知見を通して、集積化を含む物質創製や新奇物性、機能創出によるデバイス応用研究などを支援するとともに、「2.5次元物質科学」の基盤となる分析科学の学理を担う事を目的としている。 まずは、2.5次元物質の研究に資する先端光学手法などの分析手法の開発と高度化を進めた。特に、異なる遷移金属ダイカルコゲナイドなどの二次元物質を積層した際に生じるモアレ構造などの特異な系を対象として、分光手法の高度化と共に広く領域内外の共同研究に供した。また、領域内で作製された単層、二層、多層グラフェンとh-BN, CVDで作製されたWSe2のなどの試料について、SPring-8を利用した薄膜測定を開始した。研究開始時に、申請可能な代行測定を利用してすべての試料について予備的なデータを測定した。さらに、電子顕微鏡および電子分光を利用した低次元物質の構造解析および局所物性評価手法の確立を目指した研究を行った。本年度は二次元物質の振動・光学特性評価技術など、領域内で汎用的に活用されるような分析手法の開発を行った。合わせて、高エネルギー光源である放射光光源および低エネルギー光源であるレーザー光源を用いた、顕微角度分解光電子分光によって、2.5次元物質におけるブリルアンゾーンを網羅した電子構造の測定およびフェルミ準位近傍の精査を行う手法を確立した。また、電子顕微鏡を用いてブラッグ回折強度の試料傾斜依存性を測定することで、2.5次元物質における層間距離を実験的に観測できることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2.5次元物質の研究に資する先端光学手法の高度化と共に、それを広く領域内外の共同研究に提供し、複数の領域内のグループと共同研究を進めることができている。実際に、本物質系の空間反転対称に関する情報が得られる第二高調波発生測定によって、興味深い結果が既に得られている。また現在、予備的なデータを解析しつつ、次の測定の計画の策定を進めている。WSe2については、大量の回折線が見られているため薄膜の原子配列レベルの構造解析を行うべく、測定方法の検討を開始した。解析法についても、最近見られるようになってきた薄膜構造解析の文献調査を開始している。合わせて、PtSe2単層・多層膜の光学特性評価を行い、運動量分解電子線スペクトルの取得に成功した。振動特性評価技術としては、グラフェン同位体の局所分析に着手しその初期的な成果が得られた。さらに、顕微光源を用いた角度分解光電子分光と局所構造観測やサブピコ秒の時分割測定が可能な超高速電子顕微鏡によって、2.5次元物質における電子構造や結晶構造、超高速現象を実験的に分析する手法を確立している。さらに、実際に遷移金属ダイカルコゲナイドの原子層フレーク試料やひねり積層体といった、2.5次元物質にそれらが適応可能であることを明らかにしており、順調に研究が進捗している。 上記の研究進捗の状況を鑑みて、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に引き続き、2.5次元物質の研究のための光学分析手法の開発と高度化を進め、モアレ構造における特異な量子光学特性に関する情報を得る。さらに、本研究を通して確立した先端分光手法を、領域内外に広く提供し共同研究を推進する。また、薄膜測定の次のマシンタイムについて、SPring-8の2022A期の申請を行い、確保することに成功している。施設の装置高度化に伴う回折装置の移動のために、実験時期は6月中旬以降しか選択することができず、最終的に8月に決定している。4月からマシンタイムまでの期間を使い、測定方法の検討と解析法の調査などを進める予定である。さらに、領域内の共同研究を通して、各種低次元物質の物性評価技術の拡充を目指す。とくに2.5次元などハイブリッド構造を持つ物質の多角的な構造解析技術の確立を目指す。合わせて、これまでに確立した2.5次元物質の電子構造および結晶構造を実験的に分析する手法をもとに、領域内との共同研究を推し進めることによって、2.5次元物質における新奇物性現象の探求を行う。また、研究対象となり得る新たな原子層フレーク試料の開拓や分析技術のさらなる向上、ソフトウェア開発による測定の自動化にも取り組む予定としている。
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