研究領域 | 神経回路センサスに基づく適応機能の構築と遷移バイオメカニズム |
研究課題/領域番号 |
21H05240
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
下郡 智美 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (30391981)
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研究分担者 |
中嶋 藍 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (60706331)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | セルタイプ / scRNAseq / 大脳皮質 |
研究実績の概要 |
哺乳類の脳には、細胞の形態や神経活動のパターンから様々な細胞種が分類されているが細胞種の総数やそれらの機能的な違い、生まれるメカニズムについては多くが不明のままである。これらを解明するために、マウスの2つの脳領域をモデルとして用い、異なる細胞種の分類、機能の違い、生まれるメカニズムを明らかにする。 マウス体性感覚野4層(バレル皮質)における有棘星状細胞と錐体細胞の遺伝子発現パターンを空間トランスクリプトミクスで解明した。視床軸索が侵入できないマウスでは有棘星状細胞が消失し、錐体細胞のみ存在する。このミュータントで発現が変化する遺伝子を同定し、細胞分化に関わる因子と仮定した。候補因子を有棘星状細胞に強制発現させると、錐体細胞に形態変化を引き起こす因子のスクリーニングに成功した。特に、Smad7を強制発現させると、バレル皮質に錐体細胞のみ存在する状態を作ることに成功。錐体細胞のみのマウスでは物質の認知機能が低下していることを示し、バレル皮質での細胞多様性の意義を明らかにした。次のモデルとして、嗅覚回路に存在する様々な神経細胞について、scRNA-seqによる大規模解析を行い、細胞種の同定、細胞種特異的な層形成・回路形成を決定する因子の同定、細胞種ごとのin vivoイメージングによる神経回路形成の可視化を行った。また、脳領域間・種間比較を行なうことで、細胞多様性に基づく神経回路構築メカニズムの解明を目指した。2023年度には、梨状皮質を対象としたscRNA-seqにより明らかになった細胞のサブタイプについて組織学的手法により細胞層特異性を検証し、細胞種特異的な層形成に関与する分子を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでにマウスバレル皮質において、細胞種の分類とその細胞種の分化を決定する責任因子であるSMAD7を同定した。また発達途中で異なる細胞種を産生することは正しい神経回路の形成と脳機能に重要な意味を持つことを明らかとした(Young et al., Nat Commun. 2023)。この発見に基づき、バレル皮質では有棘星状細胞の中に樹状突起の形態によってさらに細分化できる種類があることから、この樹状突起の形態と脳の機能の関係性を明らかにする。これまでに明らかにしてきた因子、特に樹状突起の形態を変化させる因子を用いて、異なる樹状突起を持つサブタイプの細胞種を作り出し、神経回路形成と機能に及ぼす影響を解析する。これまでに明らかにしてきた因子のノックアウトまたは過剰発現系を用いて、空間トランスクリプトミクス、ウィルスを用いた回路形成の同定、知覚刺激に対する反応をみる行動実験を行う。ここで得られる分子パスウェイが進化的に保存されているものか、マーモセットでも遺伝子発現を調べ、対応させる。さらに、これらの因子の多くが外部刺激によって遺伝子発現が低下/上昇するものが多いため、視床からの入力とこれらの遺伝子発現の関係性も明らかにする。 これまで、末梢嗅覚組織における情報処理メカニズムに関しては精力的に研究が進められてきた。一方で、梨状皮質をはじめとする嗅覚中枢領域については、形態や発火特性が異なるサブタイプが存在することが明らかになっているものの、それぞれの遺伝的マーカーや、細胞タイプに応じた回路形成の原理は不明である。2023年度は、組織学的検討を実施し、単一細胞RNA-Seqにより同定したサブタイプが層特異的に配置されていることを明らかにした。さらに、reelerマウスにおいて、梨状皮質の細胞タイプに応じた層形成が乱れることを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、バレル皮質で細胞種を決定する多くの因子を見つけてきた。これらの因子の中でも特に樹状突起の形態を変化させる因子を用いて、樹状突起が少ない、多い、方向性の異なるタイプの細胞種を作り出し、神経回路形成と機能に及ぼす影響を解析する。樹状突起の形態によって分けることができる細胞種の存在意義とその機能を明らかにする。バレル皮質内に存在する有棘星状細胞は樹上突起を視床軸索の方向に向けるもの、樹状突起の方向性がないものなどいくつかの形態を持つことが知られている。そこでこれらの異なる形態がどのように生まれるのか、また正しい本数の樹上突起をどのようにコントロールしているのか、樹状突起の形態と本数がどのように脳機能に影響を与えるのかを明らかにする。樹状突起の本数をコントロールする因子(Ntng2)、方向性を決める因子(Btbd3)、神経活動によって本数と方向性を決める因子(NR1)を用いて、これらの過剰発現、ノックアウトマウスを用いて、樹状突起の形態と脳機能の関連を明らかにする。 2024年度からは、梨状皮質の細胞種特異的な配置に関わる因子の由来を検証するとともに、梨状皮質scRNA-seqにより得られた細胞のサブタイプが発生・発達のどのタイミングで生み出されるかを検証することを通じて嗅覚情報処理を担う脳領域について回路構築の分子メカニズムを解明することを目指す。
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