研究領域 | 神経回路センサスに基づく適応機能の構築と遷移バイオメカニズム |
研究課題/領域番号 |
21H05241
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤山 文乃 北海道大学, 医学研究院, 教授 (20244022)
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研究分担者 |
大野 伸彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (10432155)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | ドーパミン / 大脳基底核 |
研究実績の概要 |
本研究計画では、適応行動の選択の際に特異的な活動を示す神経細胞に、B01班が作成するウイルスベクタを感染させ、この感染細胞の遺伝子プロファイルを明らかにするとともに、この神経細胞の軸索が投射するポストシナプス側の神経細胞の詳細な遺伝子プロファイルを明らかにする。申請者らの先行研究によると、一つのドーパミン神経細胞が投射する線条体神経細胞は計算上75,000個と類推される。この大量な遺伝子情報を解析するためには、C01班のハイスループット遺伝子解析技術と連携する。この技術に、A01藤山班の投射軸索完全可視化、三次元電子顕微鏡解析を含む超解像度形態解析技術を有機的に連携させることで(神経回路seq)、「行動選択に伴い、構造的・遺伝的に規定された神経回路がドーパミンの影響によってどのように遷移していくのか」という学術的問いに迫る。今年度の研究では、経シナプス性に運ばれるウイルスベクタを用いて、世界で初めてドーパミン神経細胞の経シナプス標識が可能であることを確認した(2023年3月日本解剖学会発表)。具体的には中脳の黒質緻密部にAAV1-hSyn1-EBFP-Creを注入し、線条体のどのニューロンにCreが運ばれたのかを検証した。AAV1ウイルスは当然順行性のみならず逆行性に運ばれうるため、線条体の投射ニューロンが標識された場合は、順行性に標識されたものか逆行性に標識されたものかの区別がつかない。しかし今回線条体のインターニューロンが標識されており、ドーパミン神経細胞の経シナプス標識が成功したことを確認できた。これまで世界的にもドーパミン神経細胞の経シナプス標識の報告はなく、この所見の更なる検証を重ねる予定である。また、分担研究者の大野はdAPEX2-AAVを用いた軸索標識に成功しており、来年度はこの両者の手法を組み合わせ、ドーパミン神経軸索投射の微細構造を確認していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで世界的にも成功例の報告がないドーパミン神経細胞の経シナプス標識を確認できたことで、研究分担者の大野との共同研究の道筋が見えてきた。もしこの経シナプス標識ができなかった場合は、さらに複雑な標識実験が必要となったはずだが、この成功のおかげで順調な進捗となっている。
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今後の研究の推進方策 |
研究分担者の大野との共同研究で、ドーパミンニューロンと接続するニューロンの標識と3次元電顕解析に取り組む。具体的には(1)ドーパミン細胞を小胞体局在型dAPEX2(AAV2-EF1a-IGK-dAPEX2-KDEL)で標識(2)投射先ニューロンをCre組換えで標識を発現するミトコンドリア局在型のdAPEX2(AAV-Syn-DIO-COX4-dAPEX2)で標識という組み合わせに挑戦する。もし、dAPEX2で細胞体や樹状突起の標識はできるのですが、軸索遠位部では十分な強さで標識が難しく、ドーパミンニューロンの軸索は他の標識プローブを検討する必要がある。例えば、別々のプローブで標識が望ましい場合、ドーパミン細胞の軸索をシナプス小胞のDAB標識で標識し、投射先ニューロンを予定通りミトコンドリア標識で標識する方針が考えられる。あるいは、ドーパミン細胞と投射先ニューロンをともにミトコンドリア局在型のもので標識する方法も考えうる。どちらの場合であっても、現在代表者と分担者各々の教室で条件検討が進んでおり、代表者の教室にドーパミン細胞を特異的に標識しうる遺伝子改変動物も導入しつつあることから、研究の推進が見込める。
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