研究領域 | クロススケール新生物学 |
研究課題/領域番号 |
21H05249
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
杉田 有治 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (80311190)
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研究分担者 |
笠原 健人 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (10824469)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 分子動力学 / データ駆動モデリング / クロススケールモデル / 細胞内環境 / 膜タンパク質 |
研究実績の概要 |
「メゾ複雑体」を計算しうるクロススケールモデリングとシミュレーション手法の開発を行った。Cellular Simulation Systems Builder (CSSB)を分子混雑系のモデリングに用いるだけでなく、細胞骨格と生体膜、および細胞核を含む長粗視化モデルの構築をスタートした。このモデルを利用することで「クロススケール細胞計測センター」内でAFM研究との連携を図る。また、計画研究の一つである稲葉班と連携して分子レベルでのカルシウムイオンポンプSERCA2bの動態を理解するための分子動力学シミュレーションを行い、クライオ電子顕微鏡で得られた構造情報と比較した。その結果、以前行ったSERCA1aのカルシウムイオン脱離の過程の構造変化とSERCA2bの構造変化が非常に類似していることを見出した。膜貫通ヘリックスの数も異なっているがイオンポンプとして共通の分子機構があると考えられる。さらに、分子反応理論とMD計算を用いて,混雑環境がタンパク質 リガンド結合(タンパク質:FKBP,リガンド:4ーヒドロキシー2ーブタン)に与える影響を解析した.混雑環境としてPEG20量体からなる高分子水溶液を用いたところ,混雑環境中での結合の速度定数は希薄水溶液中での値の1/10程度に減少するという結果が得られた.2分子反応理論の表式に基づく系統的な解析から,これは結合状態に至る直前の状態(中間状態)周りの状態間遷移速度の低下に起因することが分かった。分子動力学ソフトウェアGENESISでは、全原子モデルと粗視化分子モデルを用いたシミュレーションを実行することができるが、その計算効率の最適化をはかった。さらに、超粗視化モデルを試験的に開発し、AFMデータの解析に使えることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
混雑環境における蛋白質・基質結合の影響については、既に、笠原らにより複数の論文を2021年に発表できており、予想を超えるスピードで進展している。また、カルシウムイオンポンプについては、本変革研究における稲葉班との共同研究が順調に進んでおり論文発表に向けた取り組みがなされている。今後もクライオ電子顕微鏡と分子動力学の連携によって動的構造の深い理解がなされると期待できる。「メゾ複雑体」そのものを計算するための粗視化モデルについても予備的な検討が行われており、さらに統一的なモデリングツールとして開発が可能になってきた。全原子モデルに加えて、残基レベルの粗視化モデルについては、蛋白質、核酸、天然変性などの計算に使いやすいプログラムが完成し、フリーソフトウェアとして公開した。このような取り組みによってクロススケールモデルを用いたメゾ複雑体の動的構造のモデリングとシミュレーションを扱う基盤技術ができつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、計算科学基盤の構築と、計画班や公募班における実験研究グループとの密接な連携が予定されている。既に稲葉班のクライオ電子顕微鏡による実験との連携が順調に進んでいるが、福間班のAFMを用いた研究、西田班のNMRを用いた研究との連携についても予備的な検討がなされている。R3年度に、このような共同研究を推進するために必要なデータ共有プラットフォームの検討がなされているため、R4年度からはこのシステムを本格的に利用するフェイズに移行して、「メゾ複雑体」の動的構造の理解に向けた共同研究を推進する。計算科学基盤の構築については、その中心的な役割を果たすと期待される分子動力学ソフトウェアGENESISの機能拡張を粛々と進める。特に粗視化分子モデルについては、蛋白質、核酸、天然変性蛋白質などに関するシミュレーションが可能になってきたため、これに加えて脂質分子で構成される生体膜環境を、他の分子系と組み合わせて計算できるように拡張していく。また、残基レベルよりもさらに粒度のあらいモデルについても統一的な利用を実現すべく、開発を進める。
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