計画研究
クロススケール新生物学領域の発展のために、In-Cell AFM技術を代表とするバイオAFM技術の開発と、それを用いた細胞内現象のナノレベル研究に取り組んだ。技術的には、水上・藤原班と共同で、TIRF/AFM複合機の開発に取り組み、AFMおよびTIRFそれぞれの動作を確認した。現在、長時間観察時に生じる退色の問題があり、その解決に取り組んでいる。また、杉田班と共同でAFMによる核膜の硬さ測定とシミュレーションとの比較に取り組んでいる。実験的にはがん化にともなって核の硬さが低下することと、その原因がクロマチンの凝集状態の違いによるものであることを確認した。一方で、シミュレーション側では、AFM計測をin-silicoに再現するためのモデリングに取り組んでいる。応用研究としては、仁田班と共同でチューブリンの集合体形成に与えるCamsup2の影響について高速AFMにより研究している。これまでに、Camsup2がチューブリンリングを分解し、微小管の形成や、微小管アスター構造の形成を促す様子を直接観察して確認できている。データ量としては十分なので、あとは論文としてまとめる作業を進める。また、田中班と共同で、アミロイド繊維の表面に存在するファジーコートとよばれる揺動構造の3D-AFM観察に取り組んでいる。これまでに、コートの有無やpHの違いによって、大きな表面構造の違いがみられることを確認している。今後、再現性の確認がとれれば論文成果としてまとめるフェーズに移行できる。倉永班と共同でショウジョウバエのWing Discの硬さ測定に取り組んでいる。Wing Disc表面は細胞の単層膜で覆われており、硬さ測定に苦労していたが、この層を除去する方法が開発できたので、今後は大きく研究が進展すると考えている。
2: おおむね順調に進展している
以下の理由により、技術開発、応用研究ともに概ね順調に進展していると判断する。技術開発については、In-Cell AFM技術を様々な光学顕微鏡技術と融合させることを目標としていた。現在のIn-Cell AFMと超解像顕微鏡、共焦点顕微鏡、TIRF顕微鏡を組み合わせた複合機をそれぞれ立ち上げることができた。中でも超解像顕微鏡については、細胞表面における相関イメージングが達成されており、論文発表も完了している。共焦点顕微鏡との複合イメージングについては、アクチン繊維の観察が論文となっており、接着斑の観察が最近実現した。TIRFについては、上記の通り、装置的には完成しているが、退色という蛍光観察の原理的な問題に直面しており、観察技術の向上で、どこまで対応できるか検討している。以上の通り、当初の目標はおおむね達成できており、おおむね順調と判断する。応用研究については、In-Cell AFM, HS-AFM, 3D-AFMなどの特徴的なバイオAFM技術を用いて、様々な細胞内生命現象の起源をナノレベルで解明することを目標としている。これまでに、In-Cell AFMを用いた核膜の硬さ測定については、がんや心筋症など幅広い疾患の研究に応用できることを見出し、仁田班との共同研究が順調に進展している。また、HS-AFMや3D-AFMについても、仁田班と共同で微小管について、田中班と共同でアミロイド繊維についての研究が進展しており、こちらも順調と言える。それ以外にも、現在、山本班と液滴について、稲葉班とゴルジ体について、倉永班とショウジョウバエのWing Discについて、Wong班と細胞核について、それぞれ共同研究の計画が進んでおり、順調に共同研究のネットワークが広がりつつある。したがって、応用についても、順調に進展しているものと判断する。
現在研究はおおむね順調に進んでおり、基本的にはそれらを継続し、できるだけ早期に論文としてまとめることを目指す。一方で、新たに加わる公募班のメンバーとの共同研究の可能性も積極的に探っていく。技術開発については、TIRF/AFM複合機による接着斑の成長・崩壊過程の観察を実現するために、退色の問題の解決に取り組む。具体的には、励起光の照射時間や強度を必要最低限に抑制し、観察可能な時間を延ばす。一方で、In-Cell AFMの動作速度を向上させるために探針で細胞膜を貫通する際に最適な速度の向上を目指した技術開発に取り組む。また、In-Cell AFMによる核膜の硬さ測定に関するシミュレーションについては、杉田Gと連携して、実験系を再現できるシミュレーションモデルの開発に取り組む。応用研究については、仁田班と共同で取り組んでいる微小管の研究は、すでにデータ取得はほぼ完了しており、その解析と整理を進めて、早期に論文発表することを目指す。田中班と共同で取り組んでいるアミロイド繊維のファジーコートの3D-AFM解析については、ファジーコートが観察できることは確認できているので、あとは再現性の確認と、論文にまとめられるだけの数のデータ取得を目指す。Wong班と共同で取り組んでいる単離した細胞核の表面形状、硬さ測定については、ある程度まとまったデータが取れているので、あとは論文に必要な数のデータの取得を目指す。そのほか、仁田班と共同で取り組んでいる心筋症に伴う核ラミナ異常と細胞核の硬さの関係についての研究は、学内の臨床研究審査が終わり次第、着手する予定である。また、倉永班と共同で取り組んでいるショウジョウバエのWing Discの硬さ計測については、表面の細胞層を除去した試料を用いて、実験を実施していくことで、大きく進展できると考えている。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 4件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (29件) (うち国際学会 14件、 招待講演 8件) 備考 (3件)
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