研究領域 | クロススケール新生物学 |
研究課題/領域番号 |
21H05253
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
稲葉 謙次 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (10423039)
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研究分担者 |
渡部 聡 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (50432357)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | クライオ電子顕微鏡 / 超解像顕微鏡 / カルシウム / カーゴ受容体 / 小胞体品質管理 |
研究実績の概要 |
小胞体およびゴルジ体におけるカルシウム恒常性維持機構の構造生物学的研究において大きな進展がみられた。具体的には、クライオ電子顕微鏡により、ヒト由来小胞体カルシウムポンプSERCA2bの三つの新たな反応中間状態の構造を決定することに成功した。さらにそれら構造情報を基に杉田グループと共同でMDシミュレーションを行い、SERCA2bの反応サイクルにおける構造遷移のメカニズムに関する重要な知見が得られた。本成果については、Cell Reports誌に報告した。さらに、ゴルジ体におけるカルシウムポンプSPCA1aの新規構造をクライオ電顕により決定し、SPCA1aがカルシウムだけでなく、マンガンイオンなど幅広く金属イオンを輸送するメカニズムに関する重要な知見が得られた。本研究成果については、Science Advances誌に発表した。 もう一つの主要課題であるカーゴ受容体ERGIC53の研究については、すでに達成した全長ERGIC-53クライオ電顕構造解析の結果に基づいて、各種変異体を作成し、血液凝固第5因子などのカーゴタンパク質の細胞外分泌解析に取り組んだ。ERGIC-53ノックアウト細胞を利用した、レスキュー実験の結果、長いストーク領域や特徴的なヘッド構造の生理的意義が明らかになり、カーゴ認識の新たな分子機構が示唆された。またストーク領域が短いコンストラクトのクライオ電顕構造解析にも成功し、ストーク領域のダイナミックな構造変化とヘッド領域の構造変化を同時に可視化することにも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
カーゴ受容体ERGIC53の全長構造のみならず、小胞体カルシウムSERCA2b、さらにはゴルジ体カルシウムポンプSPCA1aの構造もクライオ電顕により高分解能で解くことに成功し、また構造情報に基づく機能解析やMDシミュレーションも遂行し、構造解析および機能解析ともに当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次の課題として、細胞内でのSERCA2bの分布を一分子レベルで観察するため、既に作製済みのSERCA2bのモノクローナル抗体を蛍光色素もしくは金ナノ粒子で標識し、細胞中のSERCA2bを超解像顕微鏡と透過型電子顕微鏡を組み合わせ観察する。これにより、内在性SERCA2bの小胞体膜上の分布に関する詳細な情報を得る予定で得ある。これら情報を基に、スーパーコンピュータ「富岳」による小胞体膜構造と細胞内の分子混雑環境をも考慮に入れた大規模分子動力学計算を杉田グループと共同でスタートさせる。 ERGIC53の研究課題については、ERGIC-53-MCFD2複合体のクライオ電顕構造解析と構造情報に基づく機能解析の論文を一日も早く投稿し、採択を目指す。またカーゴ認識の分子基盤解明に向けて、血液凝固第五因子とERGIC-53との複合体の大量調製およびクライオ電顕構造解析に取り組む。またERGIC53の細胞内構造解析を行うため、クライオ電子線トモグラフィー解析に向けた細胞試料調製にも着手する。
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