計画研究
認知症などの多くの神経変性疾患では脳内で線維状のタンパク質凝集体であるアミロイドが蓄積する。細胞内のアミロイドは構造、サイズ、局在が多様な“メゾ複雑体”であり、その分布の違いは異なる細胞機能障害や毒性をもたらす。そのため、細胞内に存在するアミロイドの多様性に焦点をあて、理解を深めることで、神経変性疾患の発症および進行メカニズムの解明や治療法開発につなげることを目的とする。本年度は、これまでの予備的な実験から得られていた知見をもとに細胞内で神経変性疾患に関与するタンパク質の凝集および脱凝集を調べることができる細胞実験系を確立することを目指した。そのために、タンパク質凝集体の分解を促す条件(基質となるタンパク質の種類、各種細胞内因子の種類・濃度など)の検討を試験管内および培養哺乳動物細胞を用いて行った。さらに、神経変性疾患に関連するタンパク質の病的アミロイド化の条件、また、その構造を詳しく調べるための構造生物学的手法の開発を進め、疾患型アミロイドの調製やその構造決定を進めた。また、本領域におけるクロススケール細胞計測センターにおいては、In-cell NMR研究の準備を進めるとともに、In-cell AFMを用いた共同研究を推し進めることで各種アミロイドの細胞内因子による構造変化を高速で観察するための実験条件をほぼ確立させた。さらに、化学生物学の手法を用いて、細胞内タンパク質凝集体の種類や量、その分布を定量するための分子設計と技術開発を進めた。これらの手法は、次年度以降の研究を進める上で有望な技術になることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
細胞内アミロイドの性質や構造を解析するための複数の技術開発が順調に進んでいるため。
細胞内における蛋白質凝集体の生成や分解をモニターするための技術開発の開発を引き続き進める。そのため、基質認識特異性に着目した実験にさらに注力する予定である。また、疾患型アミロイドの調製に関しては、アミノ酸配列や調製法を変えることで構造多型の幅を広げ、さらに、他の神経変性疾患原因タンパク質へも拡張することを目指す。クロススケール細胞計測センターにおいては、引き続き、In-cell NMR、In-cell AFMの研究を進めることで、凝集性タンパク質と細胞内因子の両方に関して、タンパク質構造の変化を分子、原子レベルで明らかにすることを目指す。また、化学生物学の手法を用いた細胞内タンパク質凝集体定量実験に関しては、本手法の設計は昨年度に固まってきたため、今年度に実験を進め、シーケンスによる定量化のための予備実験まで到達することを目指す。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Nat Chem Biol.
巻: 18 ページ: 321-331
10.1038/s41589-021-00951-y
https://www.riken.jp/press/2022/20220218_1/index.html