計画研究
硫黄分子の役割を通じて小胞体のレドックス環境の構築機構を明らかにし、タンパク質品質管理に必要な環境基盤の理解を深めることが出来た。小胞体は酸化的環境とされてきた小胞体内腔で、硫黄を介したまったく新しい電子伝達機構を明らかにした(Cell Rep. 2023)。これら電子伝達による硫黄原子に焦点を当てた構造変化は公募研究A01徳永博士らによるNMR解析によって明らかにした。また、還元酵素ERp18は硫黄原子依存的にZn2+と結合し、小胞体のレドックス環境の構成因子である過酸化水素(H2O2)の除去活性を持つことを明らかにした(Cell Rep. 2024)。さらにERdj5を含めた酸化還元酵素群が小胞体膜状に存在するカルシウムイオンチャネルIP3受容体の制御に関わることを示した。フォールディング環境の基盤を作るカルシウムイオン環境のレドックス依存的な制御が明らかにした。これらカルシウムイオンの制御は細胞全体の恒常性維持に重要な役割を果たすことを明らかにした(PNAS 2023)。計画研究A01中川班の梅澤博士らによる質量分析、計画研究A01中川班の中川博士、計画研究A01赤池班の居原博士による超硫黄プローブ・抗体によって、小胞体の主要な分子シャペロンが超硫黄化修飾されることがわかった。これらの成果から、小胞体における超硫黄修飾の生物学的意義をタンパク質品質管理にも見出すことが出来ると考えている。
1: 当初の計画以上に進展している
ERp18のZn2+依存の機能切り替えを明らかにし、小胞体における亜鉛イオンの役割とタンパク質の機能調節に関する重要な知見を得た。この発見は、小胞体の酸化的環境における新たな調節メカニズムを提示し、タンパク質品質管理の理解に大いに寄与するものである。さらに、ERdj5とBiPが協調して基質のジスルフィド結合を還元するメカニズムを特定し、ERAD過程の詳細な理解を深めた。この発見により、タンパク質の品質管理システムの分解プロセスにおける重要なステップが明らかになり、計画の重要な一部が達成されたと言える。新生ポリペプチドの酸化的折りたたみが、ER内の還元反応に電子を供給する過程の解明もまた、計画の進展を示す重要な成果である。正しいタンパク質の折りたたみと機能を確保するためのメカニズムの理解が深まり、小胞体内でのレドックス環境の維持に関する知見が拡大した。加えて、小胞体の酸化還元状態がカルシウムイオンチャネルであるIP3受容体の活性を調節することを発見し、カルシウムイオン環境のレドックス依存的な制御を明らかにした。この発見は、小胞体のフォールディング環境の基盤を形成する重要なメカニズムを示しており、計画の進展を示すものである。また、フォールディング環境を可視化する新たなセンサーの開発も、計画の重要な成果である。この成果は現在論文投稿準備中であり、さらなる知見の拡充が期待される。以上の研究成果は、計画が順調に進行していることを明確に示している。これらの成果は、研究目的に沿った進展を示すものであり、小胞体のレドックス環境とタンパク質品質管理に関する新たな知見をもたらしている。
本研究は、タンパク質の合成、成熟、品質管理と「超硫黄分子」との関わりを探求することを目的としている。特に、タンパク質品質管理を支える電子シグナル・ネットワークを明らかにし、小胞体のレドックス環境の統合的な理解を目指す。小胞体ストレス応答としての超硫黄分子の役割に着目する。超硫黄化を促進した細胞を用いて、小胞体ストレスとタンパク質品質管理の関係を検証する。超硫黄分子の量的・質的変化を追跡し、小胞体ストレス応答の際の役割を明らかにする。還元反応への超硫黄修飾の寄与も重要である。還元酵素ERdj5を含む電子伝達機構を解明し、超硫黄分子が還元反応への寄与を通じて、小胞体のレドックス環境を維持する役割を探る。小胞体への新たな電子移動経路の同定も目指す。DsbD様因子やグルタチオン輸送体の同定を通じて、電子伝達経路を解明する。本研究では、レドックス制御による小胞体恒常性維持の全貌を解明することを目指す。また、発生や分化、癌化など疾患プロセス、環境ストレス、老化に伴うレドックス環境の変化を評価し、疾患治療法開発に向けて研究を推進する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件) 学会発表 (20件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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https://ushioda-lab.com/