研究領域 | 新興硫黄生物学が拓く生命原理変革 |
研究課題/領域番号 |
21H05270
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
斎藤 芳郎 東北大学, 薬学研究科, 教授 (70357060)
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研究分担者 |
山本 雅之 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50166823)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | セレノプロテインP / セレン / システインプロテアーゼ / リソソーム / 酸性化 / レドックス / KEAP1 |
研究実績の概要 |
これまで、申請者の研究から血漿中のセレン含有タンパク質セレノプロテインP(SeP)が、タンパク質に結合した超硫黄分子を還元し、除去する活性があることを見いだした。本研究課題では、超硫黄分子に対するSePの反応性を解析し、SePによる超硫黄分子の還元・制御機構および細胞内シグナル伝達に対する作用機序を明らかにする。過剰SePが関与する疾病(糖尿病や血管病変、がんなど)と超硫黄分子との関連性を明らかにし、疾病に関わるシグナル伝達(インスリン刺激・細胞増殖など)の制御機構を解明する。さらに、セレン・硫黄代謝を制御する転写因子NRF2のタンパク質分解制御におけるKEAP1の作用メカニズムを解明する。すなわち、KEAP1のシステイン側鎖の超硫黄化状態を解析し、KEAP1の反応性を規定する要因として超硫黄分子および上記シグナル伝達における役割を明らかにする。 令和3年度は、超硫黄分子に対するSePの反応性・還元作用(課題1)、過剰SePが関わる疾病における超硫黄分子の関与(課題2)、およびKEAP1のストレス感知における超硫黄分子の役割(課題3)について検討した。課題1については、超硫黄化により失活したシステインプロテアーゼを作成し、SePによる還元によりその活性が回復することを見いだした。また、超硫黄化されたタンパク質を酸性条件下でアルキル化し、アビジンビオチン結合を用いて当該タンパク質を分離同定する新たな手法も開発した。課題2では、SePが存在するリソソームに着目し、リソソーム内における超硫黄の生成とシステインプロテアーゼ阻害作用、およびSePの添加効果について解析する実験系を構築した。実際、過剰な超硫黄によって低下するリソソーム酸性化に対してSePは回復させる作用を持つ事を見いだした。課題3として、超硫黄化されうるKEAP1のシステイン残基が明らかとなってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度の取り組みであったが、順調に超硫黄関連の実験系構築が進み、蛍光プローブなどの汎用される実験系構築だけで無く、オリジナルの実験系構築にも成功した。システインプロテアーゼについても超硫黄化による活性の変動、SePによる回復が観察され、培養細胞系でも同現象が再現できる系が構築できた。また、KEAP1の超硫黄化されるシステイン残基も同定されたことなどから、総合的に当初の計画以上に進展していると判断された。次年度もこの取り組みを続け、領域の研究発展にも貢献したい。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に確立した実験系を活用し、各種生命現象における超硫黄の関与およびSePによる還元作用を明らかにする。超硫黄分子に対するSePの反応性・還元作用(課題1)では、超硫黄を還元するアッセイ系をさらに詳細に検討し、ラマン光解析やLC-MS解析も組み合わせて、還元反応の分子機構を明らかにする。また、これまで明らかになっている超硫黄化アルブミンの還元反応も含め、硫黄を何原子外すかなど、困難な課題についても挑戦する。特に、システインプロテアーゼでは、硫黄何原子により失活するか、また何個外すと活性が回復するかとった視点についても検討する。過剰SePが関わる疾病における超硫黄分子の関与(課題2)における検討では、細胞レベルでの還元反応に酸性条件における超硫黄の安定化を活用し、リソソーム内における超硫黄化と酸性化・分解に関わる因子の活性変動について明らかにする。超硫黄の酸性が知られる黄色ブドウ球菌感染モデルなどを活用し、超硫黄化にともなう酸性化の低下やSePによる還元にともなう回復作用についても明らかにする。KEAP1のストレス感知における超硫黄分子の役割(課題3)では、前年度同定したシステイン残基に着目し、各種変異体を用いた解析を進め、その超硫黄化の生体防御における重要性について明らかにする。
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