計画研究
本研究では、いくつかの細菌種を用いて硫化水素応答時のセンサータンパク質の修飾状態と遺伝子発現変化を精査し、細胞内における硫化水素の認識とシグナル伝達のメカニズム、またその生理的重要性を解明することを目指している。2022年度は以下の項目の研究を進めた。1)大腸菌のSqrRホモログYgaVの生化学的解析:紅色光合成細菌の硫化水素依存型転写因子SqrRは活性硫黄分子種依存的に分子内テトラスフィド結合を形成することがわかっている。同様の修飾が大腸菌のSqrRホモログ(YgaV)でも起こるのかを調べたところ、SqrRとは異なり、YgaVは硫化水素イオン存在下で分子内テトラスルフィド結合を形成することがわかった。2)紅色細菌の活性硫黄分子代謝とシグナリングの関係性:2021年度までに、硫化水素添加時の紅色細菌内における超硫黄分子種の存在量推移に関する網羅的定量データを東北大学の赤池研究室の協力のもと取得し、その解析を重点的に進めた。2022年度はその解析結果を基にした論文の執筆を進め、掲載するに至った。また細胞内の活性硫黄分子種の組成変化を基にその代謝過程を予想したところ、SQRによる硫化水素酸化後の活性硫黄分子種の代謝過程が予想された。そこでこの代謝に関わると予想されたいくつかの代謝酵素の変異体を作出し、活性硫黄分子種の代謝とそのシグナリングの関係性を調べる実験系の構築を進めた。3)YgaVの生理機能解析:前年度までにygaV変異体は抗生物質耐性が弱まることを明らかした。そこで、活性酸素種の定量などを通じて、YgaV依存の転写制御がどのような抗生物質にどのくらい寄与するのかを精査したところ、YgaV変異体の抗生物質に対する抵抗性は抗生物質ごとに異なることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍もあけ、通常通りの実験環境で研究を実施することができたため。
これまでの成果を踏まえ、2023年度は以下の項目の研究を進める予定。1)大腸菌のYgaVの生化学的解析:紅色光合成細菌の硫化水素依存型転写因子SqrRは活性硫黄分子種依存的に分子内テトラスフィド結合を形成することがわかっている。一方、大阪公立大学の居原教授との共同研究により、大腸菌のSqrRホモログ(YgaV)は高濃度の硫化水素イオンにより同様の修飾を直接形成しうることがわかった。この反応性の違いが何に起因するのかを、SqrRとの比較生化学的解析により明らかにする。2)紅色細菌の活性硫黄分子代謝とシグナリングの関係性:2022年度までに、紅色細菌のSQRによる硫化水素酸化後の活性硫黄分子種の代謝に関わる酵素の変異体を複数作出している。今年度は、これら変異体の活性硫黄分子種の代謝とそのシグナリングの影響を精査し、細胞内の活性硫黄分子種の代謝過程の詳細と、その代謝が活性硫黄分子種依存の転写制御に及ぼす影響を明らかにする。3)タマネギ感染菌における活性硫黄分子種の役割:タマネギは抗菌物質として作用するさまざまな硫黄化合物をつくり、タマネギに感染する細菌はこれら硫黄化合物に応答するシステムを有していると考えられる。そこで活性硫黄分子依存のシグナル伝達に関する研究成果の応用的展開を見据え、タマネギ感染菌Burkholderiaにおけるタマネギ感染時にはたらく転写因子の同定を進める。その転写因子の生化学的・遺伝学的解析を進めることで、細菌の硫化水素・活性硫黄分種の応答性の一般性と多様性に関する情報を得ることをも目指す。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
PNAS Nexus
巻: 2 ページ: pgad048
10.1093/pnasnexus/pgad048
Antioxidants
巻: 12 ページ: 699
10.3390/antiox12030699
巻: 11 ページ: 2359
10.3390/antiox11122359
Microorganisms
巻: 10 ページ: 908
10.3390/microorganisms10050908
https://www.titech.ac.jp/news/2022/065541
https://www.titech.ac.jp/news/2023/065803