研究領域 | 非ドメイン型バイオポリマーの生物学:生物の柔軟な機能獲得戦略 |
研究課題/領域番号 |
21H05279
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
荒川 和晴 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 准教授 (40453550)
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研究分担者 |
國枝 武和 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (10463879)
田中 冴 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 特任助教 (60770336)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | クマムシ / 乾眠 / 非ドメイン型タンパク / 天然変性タンパク |
研究実績の概要 |
極限環境耐性を持つクマムシは種特異的なタンパク質を多数有しており、それらの多くは煮沸処理後も可溶性を失わない「熱可溶性」という特異な性質を示す。本研究ではクマムシが示す優れたストレス耐性能力に注目し、クマムシ特異的な非ドメイン型タンパク質の細胞レベルでの機能解析を進めると共に、それらの分子レベルの作用機序から個体レベルでの生理機能まで、全階層横断的な解析を主導的に進めることを目的としている。初年度となる21年度は、まずクマムシ乾眠関連タンパクの中でも特に非ドメイン性が強く初期から着目されていながらも、その機能が明確でなかったCAHSタンパクについて機能解析を進めると共に、他の新規非構造タンパクについても探索を進めた。結果、CAHSタンパクが乾燥時に繊維化を伴って凝集し、ゲル状に可逆的にシフトすることが明らかとなった。また、CAHSタンパクの安定発現昆虫細胞株を樹立したところ、高浸透圧ストレス下において細胞表面の物理的強度(弾性)が有意に亢進し、浸透圧による細胞体積減少の顕著な抑制と細胞構造の保持能が明瞭に改善することを明らかにした。これはCAHS タンパク質の新たな生物学的役割としてストレス時にオンデマンドで細胞を物理的に強化することを示した成果である。 CAHSタンパクはクマムシが属する緩歩動物門の1つの綱、真クマムシ綱でしか保存されていないが、もう1つの綱である異クマムシ綱における類似のタンパクの存在を超微量オミクス解析及び熱可溶性アッセイによって調べたところ、配列保存性がないが、常時高発現で非ドメイン型の複数パラログを持つ熱可溶性タンパクが見出され、このような非ドメイン型タンパクは収斂的に獲得されている可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、クマムシの乾眠に関わる非ドメイン型タンパクの機能解析と、新規タンパクの探索を進められている。前年度までに同定していたストレスに応答して可逆的に沈殿するタンパク質群 DRYPs について動物細胞内での挙動を解析し、ストレスに応答して凝集形態を変化させるものを同定した。ストレス耐性に関わる有望な候補として来年度以降の解析を優先的に進める予定である。クマムシ内部で任意のタンパクを発現させるベクター発現系も各種組織特異的に発現するプロモーターセットが整いつつあり、実際に乾眠関連タンパクのクマムシ内での挙動を次年度以降観察していく。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに開発した二つの新技術、Droplet-MDAによる超微量ゲノムDNAからの全ゲノム解析と、クマムシ発現ベクターのマイクロインジェクションによるクマムシにおける任意のタンパク発現系を用いて、飼育ができない系統を含める多様なクマムシのゲノム解析及びその特異的タンパクの発現解析を進める。また、乾眠において可逆的凝集する乾眠関連タンパクのクマムシ内での挙動について発現系を用いて詳細に解析を進 め、in vitroでの挙動が実際にクマムシ内で反映されるかを調べるとともに、これらタンパクが乾燥において細胞を保護する機構を明らかにする。また、これまでに同定したストレス応答性の可逆凝集タンパク質群DRYPについて、そのストレス耐性機能を生化学・細胞生物学・生物物理学 的手法を駆使して多面的に解析し、その耐性寄与メカニズムを解明する。また、DRYPを含めてこれまで同定してきた非ドメイン型耐性タンパク質について、凝集形態の違いが生み出す保護メカニズムの差や、そうした形態・機能の差を生み出す構造基盤の解明を目指す。
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