研究領域 | 非ドメイン型バイオポリマーの生物学:生物の柔軟な機能獲得戦略 |
研究課題/領域番号 |
21H05282
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研究機関 | 長浜バイオ大学 |
研究代表者 |
依田 隆夫 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (50367900)
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研究分担者 |
鄭 載運 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任技師 (10554701)
譚 丞 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 特別研究員 (20865886)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 天然変性蛋白質 / 分子動力学シミュレーション / Hero蛋白質 / 液液相分離 |
研究実績の概要 |
天然変性蛋白質(IDP)は非膜オルガネラの重要な構成成分であり、その異常な凝集が神経変性疾患に関わることでも知られている。IDPに含まれている天然変性領域(IDR)は、配列があまり保存されておらず、定まった天然立体構造を欠いている。IDPの機能を探る上でIDRが関与する分子間相互作用の役割を解明することは重要であり、そのための有用なツールとして分子動力学シミュレーションを活用できる。そこで我々は、細胞内の蛋白質を安定化し病的な凝集から守る機能を持つ、一連のHero蛋白質を主要なターゲットの一つと定め、全原子モデルと粗視化モデルを用いた IDP のシミュレーション研究を行なっている。 本研究では2022年度に (1) Amber99SBws-STQ力場を用いたHero蛋白質部分配列ペプチドの全原子gRESTシミュレーション(依田)、(2) 大規模gREST MDのための新規アルゴリズムの開発(Jung)、 (3) TDP-43とHero11のマルチスケールMDシミュレーション(Tan)を行った。 Amber99SBws-STQ力場はIDPを念頭に改良された全原子力場の一つであるが、(1)では実験データとの比較により、同力場がHero9とHero11のシミュレーションに使用可能であると示唆された。(2) では今後行う予定である非常に大きい系のgREST MDとその分析のために要求される計算資源量の低減に資する手法を開発した。(3)では全原子モデルと粗視化モデルを用いた大規模な分子動力学シミュレーションにより、Hero11がTDP-43の凝集を防ぐ現象の具体的な分子機構を提唱した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的を達成するため、2022年度には以下の研究を行なった。 (1)Amber99SBws-STQ力場を用いたHero蛋白質部分配列ペプチドの全原子gRESTシミュレーション(依田) Amber99SBws-STQ力場のHero蛋白質における有用性を確認するため、Hero9とHero11の部分配列ペプチドのgREST MDを行い、シミュレーションに基づいて予測したCDスペクトルを新津らが実測したスペクトルと比較した。結果、波長 222 nm のCD値がよく一致し、Hero9のヘリックス含量がHero11よりも大きいという実験的な知見と一致した。 (2)大規模gREST MDの効率化のための新規アルゴリズムの開発(Jung) gRESTは効率的な構造探索手法として有用だが、非常に大きな系へ適用する場合の計算量に関する課題も存在する。そこでプロセス-レプリカ間の効率的なネットワークマッピング法とgREST MDのon-the-flyエネルギー分析法を開発した。後者によりMBAR法による自由エネルギー計算のための後処理で生じる計算負荷を大幅に(検証結果では2万倍程度)軽減できることが示された。 (3)TDP-43とHero11のマルチスケールMDシミュレーション(Tan) Hero11とクライアント蛋白質であるTDP-43の相互作用をマルチスケールMDで研究した。Hero11が凝縮相のTDP-43の構造、分子間相互作用、ダイナミクスに及ぼす影響や、変性領域の割合が高いHero11が凝縮体表面に集合する傾向があることを明らかにした。TDP-43凝縮体の融合の抑制を始めとする、Hero11による抗凝集活性の分子機構を提唱した。この成果はHero11とTDP-43の相互作用に関する理解を著しく進めるものである。 以上、2022年度まで、予定した研究をおおむね順調に行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も2022年度までに行なってきた研究を継続しつつ、当面はHero蛋白質を主要なターゲットの一つとして、粗視化モデルおよび全原子モデルを用いたシミュレーション研究を行なってゆく。特に、2022年度に行ったシミュレーションにより提唱したHero11によるTDP-43の液滴の融合制御のモデルに関する研究や、Hero蛋白質が関わる分子間相互作用の全原子シミュレーションによる研究を推進する。多数の蛋白質分子を含む大規模な系のシミュレーションを行うためにTanらによる粗視化モデルで得られた構造を全原子モデルに変換する技術やスーパーコンピュータ「富岳」などの計算資源を活用する。
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