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2023 年度 実績報告書

非ドメイン型バイオポリマーの分子動力学計算

計画研究

研究領域非ドメイン型バイオポリマーの生物学:生物の柔軟な機能獲得戦略
研究課題/領域番号 21H05282
研究機関長浜バイオ大学

研究代表者

依田 隆夫  長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 准教授 (50367900)

研究分担者 鄭 載運  国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任技師 (10554701)
譚 丞  国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 研究員 (20865886)
研究期間 (年度) 2021-09-10 – 2026-03-31
キーワード天然変性蛋白質 / 分子動力学シミュレーション / Hero蛋白質 / 液液相分離
研究実績の概要

天然変性蛋白質(IDP)は非膜オルガネラの重要な構成成分であり、その異常な凝集が神経変性疾患に関わることでも知られている。IDPに含まれている天然変性領域(IDR)は、配列があまり保存されておらず、定まった天然立体構造を欠いている。IDPの機能を探る上でIDRが関与する分子間相互作用の役割を解明することは重要であり、そのための有用なツールとして分子動力学シミュレーションを活用できる。そこで我々は、細胞内の蛋白質を安定化し病的な凝集から守る機能を持つ、一連のHero蛋白質を主要なターゲットの一つと定め、全原子モデルと粗視化モデルを用いた IDP のシミュレーション研究を行なっている。
本研究では2023年度に (1) Hero蛋白質とその部分配列ペプチドの全原子MD(依田), (2) 大規模分子動力学計算のための技術開発(Jung), (3) TDP-43とHero11の凝縮相の全原子MD(Tan) を行った。
Hero蛋白質は他の蛋白質(クライアント)の病的な凝集を抑える機能を有するIDPであるが、(1)では3種類のHero蛋白質の部分配列ペプチド(4種類)のgREST MDで観察される二次構造形成の力場依存性を明らかにした。(3) では粗視化モデルに基づいて注意深く全原子モデルの初期構造を構築した。これを使って全原子MDを富岳で行ったところ、粗視化MDで得られた知見と一致する結果が得られた。(2)ではこれまでよりも大規模な粗視化MDを可能にする技術と同技術を搭載したGENESIS CGDYNの開発を行った。また、TDP-43 LCDを多数含む超大規模な系の粗視化MDにより液滴の融合を観察することに成功した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究目的を達成するため、2023年度は以下の研究を行なった。
(1)Hero蛋白質とその部分配列ペプチドの全原子MD 依田は以前から注目していたHero9、Hero11に疎水的な残基の少ないHero7を加え、部分配列ペプチドのgREST MDを富岳で行った。Amber99SBws-STQ力場とCharmm 36m 力場による結果を比較したところ、いずれの力場でも実験結果に近いヘリックス含量を再現された。ただし、ヘリックスを比較的形成しやすいHero9(の部分配列ペプチド)でヘリックス含量が過小評価される傾向があるなど、実験からの乖離も見出された。
(2)大規模分子動力学計算のための技術開発 Jungは大規模な粗視化MDを高速で実行するため、動的負荷分散を伴うheterogeneous domain decomposition法を開発した。これをCGDYNに実装し、従来の手法や既存ソフトウェアとの性能比較を行ったところ、CGDYNの優位性が示された。CGDYNにより多数のIDP分子を含む系の粗視化MDを行ったところ、50個の小さい液滴が融合して直径約0.1μmの大きな液滴が形成された。その際にIDP分子の小さい液滴からの分離と大きい液滴への融合を伴うオストヴァルト成長が観察されたことが特筆される。
(3)TDP-43とHero11の凝縮相の全原子MD 以前行った粗視化MDでHero11がTDP-43の液滴の密度を低下させることが示唆されていた。そこでTanは、この粗視化モデルに基づいて全原子モデルを注意深く構築し、これを初期構造とする全原子MDを富岳で行った。Hero11を含まない系との比較によりHero11がTDP-43の凝縮相を緩めることを見出した。これは粗視化MDの結果と一致する。また、水やイオンの振る舞いについても調べた。

以上、本研究は概ね順調に進展している。

今後の研究の推進方策

今後も2023年度までに行ってきた研究の一部を継続しつつ、非ドメイン型バイオポリマーのシミュレーション研究を進める。2023年度に着手した2分子系の陽溶媒全原子gREST MDによる研究を、相互作用の様態に力場依存が存在する可能性を留意して進める。また、2023年度に着手した大規模な系の全原子シミュレーション研究をさらに進め、Hero11と液滴中の蛋白質、水、イオンとの相互作用とHero11の作用機構との関係を分析する。最近開発されたGENESIS CGDYNを活用して、大規模な液滴の粗視化MDも引き続き実施する。また、残基レベルよりも細かい解像度をもつ粗視化モデルのための開発に着手する。

  • 研究成果

    (8件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 5件)

  • [雑誌論文] GENESIS CGDYN: large-scale coarse-grained MD simulation with dynamic load balancing for heterogeneous biomolecular systems2024

    • 著者名/発表者名
      Jung Jaewoon、Tan Cheng、Sugita Yuji
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 15 ページ: 3370

    • DOI

      10.1038/s41467-024-47654-1

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Micelle-like clusters in phase-separated Nanog condensates: A molecular simulation study2023

    • 著者名/発表者名
      Mizutani Azuki、Tan Cheng、Sugita Yuji、Takada Shoji
    • 雑誌名

      PLOS Computational Biology

      巻: 19 ページ: e1011321

    • DOI

      10.1371/journal.pcbi.1011321

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Nondomain biopolymers: Flexible molecular strategies to acquire biological functions2023

    • 著者名/発表者名
      Arakawa Kazuharu、Hirose Tetsuro、Inada Toshifumi、Ito Takuhiro、Kai Toshie、Oyama Masaaki、Tomari Yukihide、Yoda Takao、Nakagawa Shinichi
    • 雑誌名

      Genes to Cells

      巻: 28 ページ: 539~552

    • DOI

      10.1111/gtc.13050

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Developments and Applications in Multiscale Molecular Dynamics Simulations for Biomolecular Condensation Using GENESIS2023

    • 著者名/発表者名
      Cheng Tan
    • 学会等名
      2023年度第2回計算科学フォーラム
    • 招待講演
  • [学会発表] Regulation of Biomolecular Condensation Studied with Large-Scale Coarse-Grained Molecular Dynamics Simulations in GENESIS2023

    • 著者名/発表者名
      Cheng Tan
    • 学会等名
      第61回日本生物物理学会年会
    • 招待講演
  • [学会発表] Development of GENESIS for large-scale molecular dynamics2023

    • 著者名/発表者名
      Jaewoon Jung, Yuji Sugita
    • 学会等名
      CJK-WTCC VI
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 人工設計ペプチドイオンチャネルの構造ダイナミクス2023

    • 著者名/発表者名
      新津藍, Jaewoon Jung, 杉田有治
    • 学会等名
      第23回日本蛋白質科学会年会
    • 招待講演
  • [学会発表] Development of GENESIS on Fugaku for Large-Scale MD Simulations2023

    • 著者名/発表者名
      Jaewoon Jung, Yuji Sugita
    • 学会等名
      Workshop of Multi-scale Molecular Dynamics Simulation and Machine Learning of Biomolecular Systems
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2024-12-25  

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