研究領域 | 競合的コミュニケーションから迫る多細胞生命システムの自律性 |
研究課題/領域番号 |
21H05284
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
井垣 達吏 京都大学, 生命科学研究科, 教授 (00467648)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 細胞競合 / 多細胞生命システム / 自律性 / 自己最適化 / 自己組織化 |
研究実績の概要 |
近年、発生中のショウジョウバエ器官原基において、細胞間に生じた僅かな性質の差が「細胞競合」を引き起こし、生体内環境への適応度が低い細胞が排除され、高い細胞が選択されて成体を形成することがわかってきた。しかし、細胞競合の分子機構や生理的意義はいまだ不明な点が多い。我々は最近、ショウジョウバエにおいて、これまでの予想以上に多数の細胞競合誘発変異(細胞競合トリガー)が存在し、それらの分子メカニズムも多様であることを見いだした。そこで本研究では、ショウジョウバエ器官原基において細胞競合を引き起こしうる遺伝子変異を網羅的に同定してその分子機構を解析し、細胞競合の多様性とその普遍的法則を見いだすとともに、細胞競合のマスター制御因子や特異的マーカー分子を同定して細胞競合の生理的役割を解明する。さらに、本領域内での共同研究を通じて、細胞競合による多細胞生命システムの自律性の生成メカニズムの解明に迫る。本研究でのこれまでの解析において、多数の細胞競合トリガー変異を単離することに成功し、それらのシグナルメカニズムのカテゴリ化を進めた。その結果、多くの細胞競合誘発変異がbZip型転写因子Xrp1あるいはストレスキナーゼJNKに依存した2つのシグナル経路に収束することを見いだした。また、多くの細胞競合誘発変異が共通して細胞内タンパク質合成能を低下させることを見いだした。これらの結果は、様々なトリガーによって引き起こされる細胞競合が共通のシグナル経路によって駆動されていることを示唆するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、細胞競合の普遍性・多様性とその分子メカニズムを解明するとともに、生理的な細胞競合を捉えてその役割を解明し、最終的には細胞競合による細胞集団の自己最適化の原理を解明することを目指す。これらの目標を達成するため、まず発生中のショウジョウバエ成虫原基を用いて大規模な遺伝学的スクリーニングを実施し、細胞競合を引き起こしうる遺伝子変異(細胞競合トリガー)を網羅的に同定するとともに、それらの動作機序をショウジョウバエ遺伝学および空間オミクス解析やイメージング解析を通じて明らかにしていく。また、これらの解析を通じて細胞競合のマスター制御因子や特異的マーカー分子を同定し、生理的な細胞競合を捕捉してその役割を解明していく。これまでの解析において、多数の細胞競合トリガー変異を単離することに成功し、それらのシグナルメカニズムのカテゴリ化を進めることができた。その結果、細胞競合シグナルがごく少数のシグナル経路に収束すること、また細胞競合の敗者に共通した一つの細胞内変化を捉えることに成功した。以上のことから、本研究は概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析において、様々な細胞競合トリガー変異の多くが転写因子Xrp1あるいはストレスキナーゼJNKを介したシグナル経路に収束して細胞競合の「敗者ステータス」を導くことがわかってきた。そこで今後は、Xrp1及びJNKシグナル経路の上流メカニズムを遺伝学的解析により明らかにしていく。また、多くの細胞競合誘発変異が共通して細胞内タンパク質合成能を低下させることに着目し、細胞内タンパク質合成能の低下が細胞競合に必須であるのかを遺伝学的に解析する。もしこれが細胞競合の誘導に必須である場合は、その分子機序を明らかにしていく。さらに、これらの上流イベントが、これまでに明らかにした細胞競合の実行メカニズム(オートファジー活性化、NFkB活性化、細胞死遺伝子hidの発現誘導など)にどのような分子機序でリンクするのかを遺伝学的解析やライブイメージング解析により明らかにしていく。
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