計画研究
上皮細胞間の接着は、多細胞生命システムの構築と自律性に重要な役割を果たしている。本研究では培養細胞系およびマウスを用いて、「細胞間接着の動態・制御を起点とした細胞競合の動作機序と制御機構」を明らかにし、これにより細胞競合による多細胞生命システムの自律性の生成メカニズムの解明を目指し、研究を進めてきた。研究分担者はこれまでに、細胞間接着が破綻した細胞が細胞競合によって排除されること、この時に周囲の正常細胞のアドヘレンス・ジャンクションおよび境界面に形成されるアクトミオシン束が重要であることを見出してきた。今年度は敗者細胞の排除過程における細胞形態の変化を定量的に解析した結果、境界面の正常細胞が敗者細胞に向かって伸長すること、一方で敗者細胞はこの細胞伸長および境界面のアクトミオシン束の収縮により敗者細胞が圧縮されていることが明らかになった。この細胞の形態変化にはアドヘレンス・ジャンクションおよびアクトミオシンが必要であった。さらに、阻害剤実験より、Hippo経路が敗者細胞の排除に関わることを見出した。これらの結果は、敗者細胞の排除にメカニカル・ストレスが関与する可能性を提起した。一方で、研究代表者は最近、上皮細胞間接着を誘導する生体由来因子(新規ペプチドJIP)の同定に成功した。今年度はJIP以外に細胞間接着誘導因子がさらに存在することを見出した。これら細胞間接着誘導因子による細胞競合制御を目指し、細胞競合の系でよく使用されるMDCKII細胞に対するJIPの作用を評価する実験系を立ち上げた。
2: おおむね順調に進展している
細胞の形態の定量的解析により敗者細胞が圧縮されていることを見出し、メカニカル・ストレスがこの細胞競合現象に関わることの示唆が得られた。また、本研究を進める過程において、いくつかの興味深い現象を見出し、次年度以降につながる新たな知見が得られてきている。
研究分担者においては、今年度、阻害剤実験によりHippo経路の関与が示唆された。しかし、正常細胞・敗者細胞のいずれにおいてHippo経路が作用するかは明確ではない。今後、分子遺伝学的な手法を用いて細胞集団特異的なHippo経路の攪乱を行うことによりこの細胞競合現象におけるHippo経路の役割を解明したい。研究代表者においては、今年度、MDCKII細胞に対するJIPの処理条件の最適化を行なった。今後は様々な細胞競合系に処理し、細胞競合を制御しうるかを検討したい。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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