研究領域 | 競合的コミュニケーションから迫る多細胞生命システムの自律性 |
研究課題/領域番号 |
21H05286
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
小田 裕香子 京都大学, iPS細胞研究所, 准教授 (70452498)
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研究分担者 |
大谷 哲久 生理学研究所, 生体機能調節研究領域, 助教 (50415105)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 細胞間接着 / アクトミオシン / メカニカルストレス / Hippo経路 / 細胞競合 / 上皮細胞 / 生理活性ペプチド |
研究実績の概要 |
研究分担者は前年度までに、細胞間接着が破綻した細胞の排除には周囲の正常細胞が形成するアクトミオシン束が重要なこと、また敗者細胞が周囲の正常細胞により圧縮されていることを見出していた。今年度、タイムラプス解析を行ったところ、このアクトミオシン束が敗者細胞を囲うと巾着袋様の収縮が起こることを見出した。また、正常細胞と敗者細胞の混合比を変えた効果を検討したところ、敗者細胞の排除には正常細胞に囲まれることが重要なことを見出した。興味深いことに、細胞死をおこした敗者細胞の一部は周囲の正常細胞に貪食されていた。敗者細胞の排除の分子メカニズムの検討を進めたところ、正常細胞におけるHippoシグナル伝達経路が敗者細胞の排除に必要であることが明らかとなった。これらの結果から、細胞間接着構造が破綻した細胞は周囲の細胞に圧縮されメカニカルストレスが惹起する細胞死誘導によって排除されると考えられた。一方で研究代表者は、前年度までに、MDCKII細胞に対するJIPの添加について条件検討を行い、最適な処理条件を見出した。また、JIPには離散処理したMDCKII細胞を集合させる活性があることを見出した。今年度、老化に伴い分泌されるHGFによって、活性型Rasを発現させた初期がん細胞が細胞競合を介して排除できなくなることが他のグループから報告された。そこで今年度、研究代表者らは老化により低下した細胞競合能をJIPにより回復・制御させることができるか、MDCKII細胞にて検証を行った。その結果、活性型Ras発現細胞はJIP処理後に異なる挙動を示すことがわかり、細胞競合の制御に向けて手がかりを得ることができた。一方で、それぞれの因子について加えるタイミングや処理濃度などさらなる条件検討が必要であり、またどのような変化を来しているのか詳細な解析が必要であることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞間接着が破綻した細胞の排除の分子細胞生物学的な機構の解明が進み、敗者細胞が囲まれること、また正常細胞におけるHippo経路が重要だということが明らかになった。加えて、初期がん細胞排除の細胞競合系においてJIPによる制御に関して新たな知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者においてはこれまでの成果を論文としてまとめると共に、細胞間接着が破綻した細胞の排除に伴ってどのような遺伝子発現の変化が生じるかを解析することにより、異常細胞の認識機構、メカニカルストレスによる細胞死の誘導機構を解明すると共に、生体内における生理的役割を解明する足掛かりとなる分子マーカーの同定を目指す。研究代表者においては、今年度開始した実験系において解析を進め、JIPによる細胞競合の制御方法の確立を目指す。
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