機械的な力は細胞競合を制御する重要な物理的要因であり、細胞の力を起点とした細胞競合はメカニカルコンペティションと呼ばれ、近年盛んに研究が進められている。本研究計画では、上皮組織の形状依存的に細胞競合が制御されることに着目し、力-生化学シグナル同時測定技術の高度化と数理モデリングの融合を通して、細胞競合における「形-力-シグナル分子」の連関を定量的に明らかにすることを目的とした。 2021年度の当初計画では、数理・物理的視点から個別の細胞競合現象を越えた普遍的な多細胞自律性の理解を目指すため、細胞足場形状の制御と力・シグナル活性の計測技術の開発を中心に行う予定であった。しかし、年度途中に海外研究機関への異動の可能性が浮上したため、計画遂行に必要な大型機器購入を断念し計画を変更した。 代わりに、多細胞自律性を支える細胞脱落に関する数理モデリングと理論解析を行なった。細胞脱落は生体組織から不要な細胞を排除する重要な生命現象である。共同研究者らが発見した細胞外小胞が形成されることで細胞脱落が促進される現象を数理モデル化し、数値シミュレーション解析を行うことでどのようなメカニズムで細胞脱落が実行されるのかを詳細に調べた。その結果、脱落細胞が局所領域において細胞外小胞を形成することで、隣接細胞が脱落細胞側に侵入しやすい領域が生み出されることを理論的に示唆した。また、細胞脱落を促進するための適切な細胞外小胞形成の時空間分布に関して提案した。本研究成果は論文として取りまとめ、プレプリントにて公表した。また、本研究を通して得られた知見は2報の総説として発表した。
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