研究領域 | 競合的コミュニケーションから迫る多細胞生命システムの自律性 |
研究課題/領域番号 |
21H05291
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
戸田 聡 金沢大学, ナノ生命科学研究所, 助教 (20738835)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 合成生物学 / 細胞間相互作用 / モルフォゲン / パターン形成 / 細胞競合 |
研究実績の概要 |
本研究は、細胞集団がその配置やパターンを自律的に最適化する過程を人工的な細胞間相互作用によって再現することで、多細胞システムが自律性を生成する原理を明らかにすることを目的とする。まず、生体組織内で自律的に形成されるモルフォゲン勾配を培養皿上で再構成することを目指した。研究代表者はこれまでに、細胞が蛍光分子GFPを分泌し、そのGFPを細胞表面に結合することにより遺伝子発現を制御する細胞間シグナル伝達モデル「人工モルフォゲン系」を開発した。この系を用いて、拡散するGFPにより人工的なシグナル勾配を形成すると、拡散の乱れや細胞応答のゆらぎなどにより勾配内の細胞の活性にばらつきが生じていた。一方、生体内のモルフォゲン勾配では、細胞接着分子カドヘリンの発現勾配が形成され、異常なばらつき細胞はカドヘリン量の差から細胞競合により排除されることが本領域の石谷班により報告されている。そこで、まず、人工モルフォゲン系でカドヘリン発現勾配を再構成してパターンを検証したところ、これだけでは勾配内のばらつきを修復するには不十分であった。しかし、同様の実験を3次元スフェロイド培養系で検証すると、分泌物質による拡散シグナルが細胞接着応答と連動することで、細胞集団を活性化細胞領域と不活性化細胞領域に二分化できることを見出した。 また本研究では、細胞間に人工的な競合関係を構築し、複数の細胞集団が相互作用しながら均一な細胞集団へと最適化する自律性の十分条件を探索する。マウス線維芽細胞間に人工的な競合関係を構築するため、まず、細胞に効率よく細胞死を誘導できる遺伝子を複数の候補因子の中から決定した。そして、人工受容体により細胞死誘導因子の発現を制御することにより、人工的な細胞間相互作用により細胞死を誘導する人工競合システムを樹立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モルフォゲンシグナルとカドヘリン発現応答を組み合わせた細胞間相互作用を再構成し、培養皿上での平面培養と3次元スフェロイド培養系の両方で、分泌物質がどのようなパターンを形成するか解析した。当初の予定通り研究が進展しており、引き続き、本システムに細胞間相互作用を作りこむことで、正確にパターンを形成する条件の探索を続ける。 また、細胞間に人工的な競合関係を構築するため、様々な細胞死誘導因子を検討した。細胞間相互作用に関係のないわずかな漏れ発現が毒性を引き起こす因子が多かったが、その中で、通常の細胞増殖に影響がなく、シグナルを受け取ったときのみ効率よく細胞死を誘導する因子を見つけることができた。これにより、今後の実験の基礎となる、人工的な細胞間相互作用により細胞死を誘導する人工競合システムを樹立することができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、GFPの受容と分泌によるモルフォゲンシグナルの再構成系において、GFPに対する応答として細胞競合因子を誘導し、勾配内に生じたばらつきを細胞競合により排除することができるかを検証する。そのため、がん遺伝子を発現した細胞が細胞競合によって排除されることが知られている上皮細胞株に人工モルフォゲン系を導入し、GFPによる細胞競合因子の誘導を設計して、シグナル勾配形成過程を解析する。また、引き続き3次元スフェロイド培養系において、モルフォゲンシグナルと細胞接着応答の連動によるパターン形成過程を解析する。以上により、細胞集団が拡散するシグナル分子に応答して自律的にパターンを形成する仕組みを検証する。 これに加えて、細胞集団が自らを均質化するのに十分な細胞間相互作用のルールを解明するため、細胞間に人工的な競合的コミュニケーションを構築した多細胞モデルシステムを作製する。今年度樹立した人工競合システムを実際に細胞間に導入し、勝者の細胞集団がどのように広がり、敗者の細胞集団はどのように駆逐されていくかを様々な培養条件において解析する。また、代償性増殖に代表されるような死細胞からのシグナルが細胞集団の均質化にどのように影響するかを検証するため、細胞が死につつある時に人工受容体に対するリガンドを放出して、周囲の細胞に遺伝子発現シグナルを送る人工的な代償性シグナル系の開発を目指す。 さらに、synNotchシステムを用いた細胞競合制御因子の分子スクリーニングなど、領域内での共同研究を進める。
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