研究領域 | サイバー・フィジカル空間を融合した階層的生物ナビゲーション |
研究課題/領域番号 |
21H05301
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牧野 泰才 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (00518714)
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研究分担者 |
高坂 洋史 電気通信大学, 情報理工学域, 准教授 (20431900)
増田 祐一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (20856231)
藤原 正浩 南山大学, 理工学部, 講師 (30825592)
野田 聡人 高知工科大学, システム工学群, 准教授 (60713386)
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研究期間 (年度) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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キーワード | 超音波フェーズドアレイ / ワイヤレス給電 / バーチャルリアリティ / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
本研究課題は主に3つの課題について取り扱っている. 1)超音波フェーズドアレイの動物行動介入への利用:超音波振動子をアレイ状に配置し,位相を制御することで遠隔から不可視の力提示が可能となる.本課題ではこの遠隔力提示を使い,不可視であるという特長を利用し,動物の行動実験における観察に適した介入手段として利用する.ショウジョウバエ幼虫やアリに対して利用することで,特定の範囲に行動を制限するなどの介入が可能であることを確認している.このフェーズドアレイはまた,超音波としての介入にも適すため,コウモリなど超音波を利用して外界を把握する動物への介入にも適している.そのための計測,介入装置の開発も行っている. 2)遠隔給電の動物観察での利用:無線を利用した遠隔給電を,動物観察において利用することを考えている.オオミズナギドリの人工巣において,鳥が帰巣した際にウェアラブルデバイスに給電をするための手法の検証を行い,理論上十分な給電が可能であることを見積もっている.また,RFIDタグを利用した昆虫の行動観察において,その観察可能範囲を拡げるために,既存のRFIDリーダのアンテナ特性を実測し,その特性を明らかにするとともに,行動観察に適したアンテナのデザインを検証している. 3)盲導犬歩行の追体験とその活用:盲導犬歩行時のハンドルを介した触覚インタラクションを記録し,それを再生する装置の実現を目指している.このための計測用ハンドルを実装し,実際の訓練歩行の再現や,そのような計測された力の可視化による訓練の効率化などを検証している.また,このような盲導犬訓練の解析のための人と犬の骨格情報取得のための画像処理や,骨格情報を活用した訓練の数値モデル化も行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は以下のような理由により,おおむね順調に進展していると考えている. まず1つに,超音波の動物行動への介入の見通しが立った点である.超音波を利用した動物での利用はこれまで前例ないため,対象とする動物の行動にどのように影響するか未知であった.これまでの研究により,実際にショウジョウバエ幼虫やアリなどの昆虫に適用した結果,ある特定の範囲内に留めておくのに十分な刺激であることや,それを知覚している器官に関する知見などが明らかになってきている.超音波で提示可能な力と比較して軽量な動物であれば,十分利用可能であることが示されてきた. 2つめに超音波をはじめとしていくつかの基盤技術について,領域内の他の研究グループと共同研究が進展していることが挙げられる.アリやトンボなどの昆虫,マウスなど小動物への超音波を利用した介入が進んでいるほか,RFIDタグを利用したアリの行動計測や,遠隔給電を利用した人工巣でのバイオロギング端末への給電の検証などが進んでいる.昆虫などでは実際に実験も行っており,人工巣については,2023年度の夏には実際の鳥を巣に入れた状況での検証なども行える予定となっている.また,上述した3つの課題の他に,磁場を利用した介入についての共同研究も進んでいる.モータにより磁場のオンオフを切り替える小型磁気装置を試作し,ウミガメや魚に搭載した際の磁場の影響を評価する準備をしている.盲導犬訓練時の骨格データについては,機械学習を活用してモデル化し活用することを想定しており,機械学習を専門とするグループと共同で研究を進めている.このように,複数の共同研究が同時に進行しており,基礎検討は完了している. 一方,対象とする動物が必ずしも1年間を通じて常に実験できるわけではないため,初年度はどれも基礎的な検証をするに留まっており,対外的な発表という観点では十分ではなかったと総括している.
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今後の研究の推進方策 |
上述の共同研究が進んでいる課題について,超音波の装置や遠隔給電装置などは動物行動計測・介入に対しての「ツール」であることから,実環境での行動計測や介入に利用できるように可搬性などを向上させた上で,生態学研究者に活用してもらうというのが基本的な方策である.基礎的な利用可能性についての検証は進んでいるため,実利用を進める中でRFIDタグ用のアンテナの改良のような,工学的な課題を見出し改善していく. それらとは別に,基本的なツールとして活用可能な基礎範囲の向上にも力を入れていく.1つは,シルクスクリーンやスポンジのような,音響的に透明な面を通しての力提示とその活用について考えている.シルクスクリーンで作成された面であれば,下から力を与えることが可能となるため,面上の小さな対象を2次元的にハンドリングすることが可能になると考えている.またカードのような薄くて軽い対象について,浮遊させたり回転させたりといったハンドリングを検証する.このような軽量物体の制御は,動物行動への介入はもとより,広く物を介したインタラクションへの活用が可能になると考えている. 盲導犬訓練の利活用では,計測したデータの提示による追体験の実現を目指すとともに,そのように計測された力の可視化による訓練の効率化を目指す.これまでに,力の計測結果を訓練士に伝えたところ,熟練した訓練士間であっても,他者がどの程度の力を与えているかは把握しておらず,力加減のノウハウが共有されていないことが確認された.このようなこれまで共有されてこなかった情報を数値化し,暗黙知を可視化することによる効率化を目指す.また,計測された犬と訓練士の動作データをもとにした,盲導犬訓練効果のモデル化を行い,訓練における介入がどのように結果に影響するかを定量的に議論できるようにする.数理的なモデルの構築を目指す.
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