研究領域 | ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究 |
研究課題/領域番号 |
22101002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西秋 良宏 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (70256197)
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研究分担者 |
門脇 誠二 名古屋大学, 博物館, 助教 (00571233)
加藤 博文 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 教授 (60333580)
佐野 勝宏 東北大学, 文学研究科, 助教 (60587781)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 考古学 / 人類学 / 進化 / ネアンデルタール人 / ホモ・サピエンス |
研究実績の概要 |
本研究の主眼は考古学的証拠を用いて旧人・新人の学習能力差を定義すること、それをもって両人類の交替劇の諸相が説明できるか(「学習仮説」)を議論することにある。 初年度に引き続き、平成24年度も、次の三つの研究を進めた。 (1)学習の産物であった石器製作伝統の分析。旧人・新人が残した石器製作伝統の時間的変遷、地理的変異をさぐる氾世界的データベースの制作が進展し、アフリカ、ユーラシア西半について分析、利用可能な状態となった。これにをもとに西アジア地域について両人類間で個体学習、社会学習の経緯を比較検討したところ、新人段階になって個体学習だけでなく社会学習においても格段の進展をなしていることが判明した。 (2)学習の場であった個別遺跡を対象とした事例分析。シリアのデデリエ洞窟、ドゥアラア洞窟について旧人・新人の生活面解析を実施した。また、デデリエ洞窟の旧人石器群を対象とした製作伝統の変遷パタンについての分析をおこなった。いずれにおいても、両人類間で類似と相違があることが明確になった。 (3)過去の学習のプロセスを解釈するための現代人の学習行動分析。1971年に渡辺仁が招来し東京大学に保管されているパプア・ニューギニア狩猟者たちの弓矢データを再解析し、近代化以前の狩猟具製作学習プロセスについて考察した。その結果、製作技術は教示によって向上するものではないこと、ヒトの生活史と密接に関係した生活習慣そのものの中に学習・教育プロセスが包含されていることがわかった。このパタンが考古学的証拠によって検証可能であることも論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は順調に進行し、当初計画していた研究種目のほとんど全てで成果をあげることができた。唯一、問題となったのは、2011年春を最後に、シリアでの野外考古学調査が政情不安により不可能となっていることである。そのため、デデリエ洞窟ですすめていた旧人生活面の空間解析が中断している。この点を補うため、1984年に東京大学が発掘し、詳細な記録類が残されているドゥアラ洞窟の生活面について、旧人の学習行動の再構築という観点からの詳細解析を開始した。その結果、きわめて優良な情報が得られることが判明したため、当面、旧人の空間解析に関してはドゥアラ洞窟の記録類で完全に代替できる見込みがたった。 研究の順調な進展は、若手研究者の育成に成果として現れた。すなわち、初年度から博士研究員3名と技術補佐員1名を雇用した。このうち3名が現在では他機関へ転出した。本計画研究が、彼らに共同研究に貢献させるとともに最先端の研究にふれる機会を提供し、結果として彼らの育成に大きく貢献したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまで、本計画研究においては、考古学的記録の中に旧人・新人学習行動の具体的な証拠を同定し分析すること、大形データベースを元に両者の文化伝統のあり方を比較すること、さらに、現代人観察をもとにした考古学的証拠解釈のためのモデル作り、という三つの研究種目に取り組んできた。今後も、この作業をさらに進展させることが第一の目標である。特に研究の重点をおいている大形データベースの作成事業については、基礎データの入力が一段落しつつあるので、本年度は、それをデータベースを利用した分析的研究を本格的に推進したい。 また、その成果を統合し、旧人・新人間の学習行動の違いを具体的に定義し、それが交替劇にいかに結びついたのかを論じていくことが、もう一つの課題である。そのために、各種目を担当する分担者、連携研究者、協力者ら、さらには、他の研究項目との連携をさらに密にしていく。そして成果発表にも積極的に取り組んでいく。最終年度には大規模な国際会議の開催を計画しているが、本年度にも、より専門的な研究集会をいくつか企画し、成果検討の機会としたい。
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