研究領域 | ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究 |
研究課題/領域番号 |
22101002
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西秋 良宏 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (70256197)
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研究分担者 |
門脇 誠二 名古屋大学, 博物館, 助教 (00571233)
加藤 博文 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 教授 (60333580)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 考古学 / 人類学 / 進化 / ネアンデルタール人 / ホモ・サピエンス / 学習行動 / 石器インダストリー / ルヴァロワ |
研究概要 |
前年度と同じく、遺跡データベース(NeanderDB)分析に基づく旧人・新人の学習パタンの検討、特定遺跡における学習行動のケーススタディ、実験考古学や民族考古学の手法を用いた現代人の学習パタン解析、といった三つの分野において研究を実施した。 データベース分析は、旧人新人交替期の考古学的証拠解析に力点をおいてすすめた。すなわち、アフリカからユーラシアへの新人拡散期において、(1)新人の所産とされる石器群が拡散した経路、年代を定めること、(2)さらにはそれらと各地の在地の石器群との間にどのような相互作用、交替が生じたか、を検討した。(1)は交替劇のプロセスを明示する研究である。これについての大きな成果は、西アジア、ヨーロッパにおける新人石器群の出現年代、進出環境がかなり絞り込めたことである。 一方、(2)の研究は旧人・新人の学習行動の違いを比較することに直接、資する。興味ぶかい論点は、特に北ユーラシア地域で「移行期」とよばれる石器群が頻出している点である。北ユーラシアの中期旧石器時代にはネアンデルタール人、デニソワ人など複数の人類集団がいたことが判明しており、「移行期」石器群の担い手が誰であったかによって学習行動の解釈も左右される。 またケーススタディにおいては、デデリエ洞窟のネアンデルタール人石器群の年代的変化の検討に成果があった。変化のパタンは古気候、食性、動物相変化ときわめてよく合致した。それは、ネアンデルタール人が生活形態、技術を適応させたことを物語る。また、技術変化は現生狩猟採集民の行動パタンに合致するものであることも判明した。最後に、現代人の学習パタン解析にあっては、昨年度に実施したカメルーンにおける民族考古学的調査のデータ解析が進んだ。その成果は既に論文をまとめたパプアニューギニア狩猟採集民の学習行動と比較しうるだけでなく、考古学的データの解釈にも活用しうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究は順調に進展している。唯一の懸念材料であったシリアでの野外調査中止は、古い調査資料の再分析、近隣地域での資料調査などで補うことができている。 昨年度の大きな成果の一つは、2012年度に開催した国際会議の収録集を出版したことがあげられる。総括班による成果であるが、内容においても編集においても、本計画研究班が主体的にかかわることができた。全部で18本の論考のち、イントロダクションを含む9本が本班ないしその関係研究者の論文である。また、旧人新人の学習行動に焦点をあてた国際ワークショップを開催し、この分野について一次的な研究蓄積をもつ研究者と意見交換し、成果とりまとめのための大きなステップとすることもできた。 研究の順調な進展は、若手研究者の育成成果に顕著に表れていると考える。雇用していた研究者3名が他機関に転出したことを昨年、述べたが、本年も2名が転出した。初年度からみると、雇用した博士研究員4名と技術補佐員1名の全てが大学、博物館等の研究機関に転出したことになる。本計画研究に参加することで、彼らに最先端の研究にふれ、実績をつむ機会を提供しえたものと信じるものである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は成果とりまとめの年である。本研究では世界各地の旧石器文化伝統の解析、個別遺跡の事例分析、現代人分析、認知考古学等々、旧人・新人交替劇および先史時代の学習行動研究に関わるさまざまな研究種目を扱ってきた。各担当者がそれぞれの分野において学術論文を執筆していくことはもちろんだが、代表者は、最終年度は、旧石器文化伝統の解析に重点をおき成果のとりまとめに向かう予定である。本研究の主眼は旧人・新人交替劇の真相が学習行動の違いにあったのではないかという仮説を検証することにある。比較検討の材料となるのは彼らが残した文化である。個別遺跡の事例分析、現代人の行動分析などの種目は、利用可能な証拠の蓄積、解釈のための方法論的研鑽にあたる試みであって、最終的には旧人、新人の文化、文化伝統について総括する必要がある。大規模なものに成長した中後期旧石器文化伝統データベース(NeanderDB)を、そのための強力なツールとして大いに活用していく。 また、成果とりまとめの一環として、総括班主催の国際シンポジウムに積極的にかかわり、成果発表、意見交換の場としたい。
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