研究分担者 |
小山 正 神戸学院大学, 人文学部, 教授 (50242889)
窪田 幸子 神戸大学, 大学院・国際文化研究科, 教授 (80268507)
今村 薫 名古屋学院大学, 経済学部, 教授 (40288444)
大村 敬一 大阪大学, 大学院・言語文化研究科, 准教授 (40261250)
亀井 伸孝 愛知教育大学, 外国語学部, 准教授 (50388724)
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研究概要 |
ネアンデルタールとサピエンスの学習能力の差違を実証的に解明するため,現生の狩猟採集民の6集団(アフリカ熱帯林のバカ・ピグミーとアカ・ピグミー,乾燥サバンナ帯のブッシュマン,オーストラリア北東部と中央部のアボリジニ,カナダ極北のイヌイト)を対象として文化人類学的ならびに心理学的調査を行い,狩猟採集民の子どもたちがさまざまな自然環境・社会環境のもとで,どのように発達するのか,どのような学習行動や教示行動をとっているのか,革新的行動はどのように生まれるのか,といった点を中心に研究を進めた。同時に高等霊長類の行動や化石人類の考古学的データから,彼らの学習行動の特性を把握し,それらとの比較をもとに人類の学習進化の理論的研究を進めた。これまで得られた知見を以下に列挙する。1)長い子ども時代における強力な観察・模倣学習と乳幼児期の自然な教示の存在。2)遊び集団への参加による主体的な学習とその後の独創的思考基盤形成。3)言語を用いた教示とその役割。4)文化的革新と思春期スパートの意義。5)社会的ネットワークと文化革新の関係。6)サピエンスにおけるメタ認知・メタ学習の発達。 現段階における学習進化図としては,以下のようなシナリオが考えられる。(1)現生のチンパンジーとそれにほぼ匹敵する猿人段階では,学習は観察とエミュレーションによる個体ベースの社会学習であり,文化継承はほとんどない。(2)ホモ・エレクトゥス段階では模倣による社会学習が発達し,さらにネアンデルタールでは教示も加えた高度な模倣による文化継承が確立した。しかし創造的学習の発達は停滞した。(3)サピエンスではメタレベルでの認知能力の進化があり,自然界の知識の飛躍的拡大と創造的な個体学習が発達した。その基盤にはメタ学習を組み込んだ社会学習の発達があり,また思春期以降の文化革新の基盤となる社会的ネットワークの発達があった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「交替劇」AO2班の内部においては,文化人類学および心理学についての現地調査がほぼ当初の予定通りに順調に進んでおり,フィールドからさまざまな新しい知見を得ることができている。また,学習の進化に関する理論についてもフィールドからの知見を組み込みながら学際的な共同研究を重ねており,学習をより大きな視野からとらえることができるようになった。問題点をあげるならば,当班以外の一部の他班との連携研究も進んでいるが,現状では十分とは言えないので,今後さらに広範囲な連携を構築する必要があるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,文化人類学および心理学を中心として,フィールドワークと学際的理論研究を車の両輪とした研究を押し進める。また,AO1(考古学班)やBO1(学習モデル構築班),BO2(古環境学班),さらにCO2(脳機能班)とのさまざまな連携研究を強化し,当班が「交替劇」全体のハブとなって学習仮説の実証を推進できるようにしたい。
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