研究領域 | ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究 |
研究課題/領域番号 |
22101005
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
|
研究分担者 |
阿部 彩子 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (30272537)
小口 高 東京大学, 空間情報科学研究センター, 教授 (80221852)
森 洋久 国際日本文化研究センター, 文化資料研究企画室, 准教授 (10282625)
丸川 雄三 国立情報学研究所, 連想情報学研究センター, 特任准教授 (10390600)
川幡 穂高 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (20356851)
横山 祐典 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (10359648)
|
キーワード | 古気候復元 / 人類進化 / 年代測定 / 放射性炭素 / 年代較正 / GIS / 生態ニッチモデル / 大気・海洋結合モデル |
研究概要 |
本研究では、旧人と新人の分布域の変化を古気候分布と比較することで、気候変動が旧人と新人の変化、とくに学習能力の進化にあたえた影響を評価すらために、(1)旧人・新人の分布域を時空間で評価するための理化学年代データベースを構築し、(2)大気・海洋結合全球モデルをつかって13万年前から3万年前について古気候分布を作成し、(3)両者をGIS上で比較する事で、気候変動がそれぞれの人類種に与えた影響の違いを定量的に評価することを目標としている。 平成23年度は具体的には次のような研究成果を挙げた。(1)旧人と新人の時空間分布を正確に復元するために、既報の理化学年代データ(西アジア約1000件、ヨーロッパ約6000件)を新たに構築した理化学年代データベースに入力した。また、個々の年代情報についてその正確性を客観的に精査し、石器製作伝統の継続年代や分布の評価法を新たに考案した。(2)交替劇の時代状況を復元した古気候分布図の作成のため、淡水流入実験によって急激な寒冷化を再現することに成功し、計算機資源を節約しつつ古気候分布図の高分解化を可能とした。(3)地域的な環境変動をまとめたwebGISデータベースを構築し、具体的事例として動物遺存体から西アジアにおける古気候変動のデータ抽出を試みた。さらに、旧人・新人の分布変動に影響する気候要素を定量的に評価するために、生態学的ニッチモデルの考古学データへの応用方法を検討し、教師データに各年代データの正確性評価の結果を重み付けるという新たな方法を考案した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震災の影響で計算機資源が制限される事態となったが、新たに炭水流入実験によって急激な寒冷化を評価するための方法を開発し、予備的ではあるが高分解能の古気候分布図を作成することに成功した。この古気候分布図をもとに、理化学年代データベースに基づく分布範囲の時間変化を推定するための方法を検証した。その結果、考古学的に矛盾がない、より正確だと評価できる石器文化編年の年代推定が可能となっている。さらに、生態学分野で開発されたエントロピー最大化法による生態学ニッチモデルをいち早く考古学に応用することで、旧人と新人それぞれの分布域に対して様々な気候要素が与える影響を個別に評価することが可能となった。以上により、より正確な古気候分布図が完成することで、旧人と新人が適応できた気候条件を定量的に比較するための方法論の基礎が完成したと評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
古気候分布の計算機実験は非常に多くの計算機資源と時間を要する。そのため寒冷化イベントを人為的に起こし、そのアノマリーを外挿するという簡易法を開発した。この方法を、更新世後半のハインリッヒイベントなどに適応して、寒冷化イベント前後の気候分布図を作成する。この結果をもって、平成24年度は西アジアおよび欧州を中心に新人と旧人が残した石器文化の分布範囲の変動を検証する計画である。あわせて、気候要素から推定される古植生を復元し、湖沼などに残されている実際の花粉データと対照することで、気候復元モデルの改良を実施する計画である。 また、生態学ニッチモデルソフトに対して、空間分布データを確率分布としてあつかう方法を実装することで、情報量が多く時間情報のコントロールが必要ない生態学で開発された手法を、時間軸にも不確実性が伴う考古学データに対しても、従来よりも正確に応用できる計算方法を考案する計画である。 また、理化学年代ベースを大規模再解析することで、ある地域における人類種分布の変化だけではなく、それぞれの種の人口変動を復元する方法を検討し、人口圧と分布変動の関係や、複雑な現代的行動の発現と人口圧との関係を復元するために、新たな方法開発に着する計画である。
|