計画研究
本研究では、更新世後期におこった急激な気候寒冷化の繰り返しが、新人と旧人の認知能力に与えた影響について実証的なデータを提示することを目的とする。そのためには、気候に関する時間的変化のみならず、空間的な分布についても情報が必要になる。前者については、氷床コアや石筍などから詳細なデータを得ることが可能となり、全球レベルでの変動が明らかになりつつある。本研究では、気候変動の時空間的変動を復元するために、大気・海洋結合モデルを用いたシミュレーションを用いて、全球の気候分布図を作成する。限られた計算機資源を最大限に活用するために、グリーンランド沖に淡水を附加するホーシング実験を行い、その差分をもとに、寒冷化イベントの影響を加味する新たな方法を考案した。旧人・新人の分布についても時空間変動を復元することが必要なため、放射性炭素を中心とした理化学年代データベースを構築した。これまでに報告された理化学年代には信頼性が極めて低いものも含まれており、データの品質を評価して、より正確な分布推定法を新たに構築している。データが比較的まとまっており、石器文化変遷のモデルが提案されているレヴァント地方を対象として、方法論、素材、誤差の大きさなどを用いたシンプルなモデルでも文化変遷の様子をより明確に示すことが可能であることが明らかになった。上記で得られた気候分布図と旧人・新人分布を比較し、両者の気候変動に対する挙動の相違を客観的に抽出するために、生態学ニッチモデルを応用したシステムを構築した。およそ3万年前と4万年前の寒冷化イベント(HE4とHE5)について、予備的な古気候分布図を利用して、遺跡立地地点の気候条件を評価したところ、新人ではより寒冷な冬にも耐えられるという変化が顕著であることが示された。
2: おおむね順調に進展している
震災の影響でスーパーコンピュータの使用時間が十分でなく、古気候復元に若干の遅れがあったが、新たな実験方法を確立することで、計算時間を節約することに成功した。現在、花粉データとの照合によって、復元された気候分布図の正確性を評価している段階である。この評価が終了すれば、すでに予備的なデータによって考古学的な応用が可能であることが確認された生態学ニッチモデルで、プロジェクト全体の目的である旧人と新人の分布範囲に関するより正確な予測モデルを構築することができる。また、そのための年代データベースの改良も順調に進呈している。
平成25年度は、あらたな実験方法で計算された寒冷期・温暖期の気候分布図を用いて、実際の考古学遺跡の分布データとの重ねあわせを、本プロジェクトで開発した新たな生態学ニッチモデルに応用することで、旧人と新人の交替劇に関する客観的なパラメータを抽出する。最初に、気候条件から推定される植生の変化を定量的に推定し、実際に得られている湖沼堆積物コアの花粉データによる方法論の評価を実施し、よりモデルの諸条件についての検討を進める計画である。具体的には、分布域の拡散速度の推定、気候変動による分布域の変動性の比較検討、気候変動の大きな地域と小さな地域における旧人・新人分布域の変動に関する比較研究などが計画されている。さらに、生態学ニッチモデルの改良については、確率論的空間分布モデルを組み入れた生態学ニッチモデルを開発しており、この新しいアプローチが従来法とどのように異なる結果をもたらすのか、複数のモデルによって先行研究が行われている欧州を中心に方法論的な検討も実施する計画である。
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