研究領域 | ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相:学習能力の進化に基づく実証的研究 |
研究課題/領域番号 |
22101007
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
田邊 宏樹 生理学研究所, 大脳皮質機能研究系, 助教 (20414021)
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研究分担者 |
定藤 規弘 生理学研究所, 大脳皮質機能研究系, 教授 (00273003)
三浦 直樹 東北工業大学, 工学部, 講師 (70400463)
河内山 隆紀 京都大学, 霊長類研究所, 研究員 (90380146)
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キーワード | 機能的磁気共鳴画像法 / 化石脳 / 古神経学 / 計算論的解剖学 / ネアンデルタール / サピエンス |
研究概要 |
本研究の目的は、作業仮説である旧人・新人の学習能力差を化石脳の比較解剖学・古神経学的証拠から検証することである。研究の二本柱のうち、現代人脳の学習機能地図作成に関しては、創造性をキーワードに研究を行った。創造性には二つの側面が有り、1つは新しいものを生み出す能力とその動機であるが、他の側面として、それを受け入れシェアし伝える能力がある。これには、他者が自分と同じく意図を持っている者であると理解できるという前提が有り、この能力により新人は他者から直接学習するだけでなく他者を通して学習できると考えられる。意図のシェアについての神経表象は未だ不明であるが、1つの可能性として脳活動の同期がある。そこで我々は二台のMRIによる脳機能の同時計測を行い、アイコンタクト中の脳活動の同期を調べ、相手のことを考えながらアイコンタクトをしている際にいわゆるミラーニューロンシステムに関わる脳部位の活動の同期が見られることを発見した。また、目を通して相手に意図を伝える際には前頭前野が、相手の目を読むには脳後部が重要な働きをしていることを見いだした。さらに、高機能自閉症症候群の患者では目線を読むのが難しくその際の脳活動も低下すること、逆に相手の健常成人は過活動になる部位があること、両者に脳活動には同期が見られないことも発見した。これらの成果は学会発表をおこない、現在論文を作成あるいは投稿中である。脳機能地図の化石脳への写像と計算論的解剖学に基づく携帯比較研究については、本年度は現生人類の同一個体のCTおよびMRI画像を用いてDARTEL法によるパラメータの差異の検証を行い、技術的な問題を解決した。これにより、計算機内での仮想空間上で旧人・新人の仮想頭蓋比較形態学を行える素地が出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生理学研究所が昨年9月中旬から今年2月まで耐震工事に入り、その間二台のMRIを使用した二個体の脳活動同時計測実験(社会的相互作用中の脳活動の同期を検証する実験)を行うことが出来なかったため。
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今後の研究の推進方策 |
H22~H23年度中の研究では、「創造性とそれを受容する社会」という切り口から、個体学習・社会学習に関与する神経基盤の同定を行った。これ自体は重要な成果であるが、脳機能イメージングでは少数の実験で結論を導き出すのは難しいことも事実である。この点を補うため、従来の個別の実験と平行しながら、旧人と新人の間の生得的な学習戦略(能力)の違いの核となる機能を見定め、これらの機能のメタアナリシス(複数の先行研究を含めた機能部位の特定)を行う。これにより、よりハッキリと旧人と新人学習能力差を浮き彫りに出来ると考えている。さらに脳機能地図作成と化石脳推定の解析手法のワンパッケージ化を行い、学習能力の進化に関するモデル構築のための比較解剖学的・古神経学的証拠を定量的に提示できるようにする予定である。
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