研究領域 | バルクナノメタル ー常識を覆す新しい構造材料の科学 |
研究課題/領域番号 |
22102004
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
堀田 善治 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20173643)
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研究分担者 |
土谷 浩一 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (50236907)
飴山 惠 立命館大学, 理工学部, 教授 (10184243)
山崎 徹 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30137252)
三浦 博己 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 准教授 (30219589)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 巨大ひずみ / 多軸鍛造 / 粉末加工 / 電解析出 / ナノ結晶 / 金属間化合物 / 調和組織材料 / 変形双晶 |
研究実績の概要 |
平成24年度は、当初の計画に沿って巨大ひずみプロセス、多軸鍛造プロセス、粉末加工プロセスをはじめ、ひずみが介入しない電解析出プロセスを用いてナノメタルを作製した。 本研究の共通試料であるCu-Zn, Cu-Al, Ni-Co合金を高圧ねじり (HPT)により巨大ひずみ加工し、双晶幅や結晶粒径が積層欠陥エネルギーと一義的な関係にあることを示した。また、TiとAlの混合粉末をHPT加工してTiAlの金属間化合物を作製し、微小なピラーを作って圧縮試験を行い、高強度で高延性が得られることを確認した。また、HPT加工中にトルクを計測してアルミニウムと銅の結晶粒微細化メカニズムを比較検討した。Fe2VAl金属間化合物をHPT加工し、サブミクロンであった結晶粒がその後の熱処理により数10 nmのナノ結晶へと変化する事を見出した。Zr-Cu-Al系金属ガラスをHPT加工するとナノインデンテーションで測定された硬さが顕著に低下し,圧痕周囲の剪断帯の密度が低下する事を明らかにした。これは加工による自由体積の増加と短・中範囲構造の変化によると考えた。多軸鍛造法を種々の合金に適用し、その後の時効硬化による強度上昇を図った。超微細粒材Mg合金は熱的安定性が低く、時効中に軟化が起こったが、銅合金では時効による強度上昇が発現し、超微細粒低積層欠陥エネルギー材に対する時効の有効性を確認した。粉末冶金法を利用して高強度・高延性、あるいは高強度・高靱性を有するナ ノ・メゾ複合組織材料を創製し、その優れた力学特性発現機構を明らかにした。掃気処理を施しながらの電析, もしくはパルス電析を行うことにより, 3GPaの引張り強度を有しつつ3%以上の塑性ひずみを持つナノ結晶Ni-W合金を開発した。また, 同合金は, 塑性変形初期に発生したせん断帯の内部において結晶粒成長が生じながら局所変形が進行することを明らにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
純金属を室温でHPT 加工する場合、100 nm 以下にナノ結晶粒化することは難しいが、化学量論組成比で混合した粉末のHPT 加工によりナノ結晶粒の金属間化合物を作製できることを示した。たとえばTiAlで3.5 GPa の圧縮強度と23%の塑性ひずみを得ることができた。 当初の目的であった非平衡性の高いバルクナノメタルの創製を達成し,それらの性質についても,金属ガラスにおける構造若返りと軟化,Fe2VAl の熱処理による結晶粒微細化など、新しい現象を見出す事ができた。 マグネシウム合金の降温MDF 材は、回復による強度低下が避けられないことから、冷間MDF法を新たに開発し、現時点では世界最高強度のマグネシウム合金の開発に成功した。銅合金のMDF では、変形双晶が結晶粒の超微細化に寄与することが明らかとなった。これを応用し、低積層欠陥エネルギー銅合金の強圧延によってMDF 材と同様の組織と特性が得られる可能性を見出した。 粉体プロセスによる組織制御では、異なる結晶粒径を有する傾斜構造を組織制御できることが明らかとなった。従来は、粉体プロセスによって粉体すべてを超微細結晶粒材料とすることを目的とした研究がほとんどであり、新たな視点からのアプローチを行った。これによって、転位論を基礎とするミクロな材料強度学と、数十ミクロン以上の寸法のマクロな構造の力学特性を融合させることで、これまで二律背反の関係にある強度と延性の両立が可能であることを実証した。 電解析出法により作製した結晶粒サイズが数nm の Ni-W 系ナノバルクメタルにおいては、引張破断強度が約3000 MPa の高強度材料であるにもかかわらず、加工硬化を伴う2%程度の大きな塑性変形が認められた。この原因として、塑性変形領域における局所的な結晶粒成長が生じ、逆ホールペッチ則に従った硬化が加工硬化として作用したと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度も、巨大ひずみプロセス、多軸鍛造プロセス、粉末加工プロセスをはじめ、ひずみが介入しない電解析出プロセスを用いてナノメタルを作製する。 これまで共通試料として準備されたCu-Zn合金、Cu-Al合金、Ni-Co合金の結果を論文にまとめて報告するとともに、種々の化学量論組成で配合した粉末からナノ結晶金属間化合物を作製し、その機械的特性について調べる。また、いろいろな金属や合金においてHPT加工した微細粒組織での水素挙動について調べ、大量格子欠陥が及ぼす影響について調べる。 機能性金属間化合物の組織極微細化による高機能化では、Fe2VAl,Fe3Niなどの金属間化合物をHPT加工によりナノ結晶化し,熱電特性や磁気特性の高機能化を計る。また、高エントロピー合金の非平衡性に関する研究では、5元系当モル比合金のバルクナノメタルを創製し,その微細組織とその組織安定性,機械的特性を評価する。 Mg合金の多軸鍛造中での変形双晶の高密度導入による結晶粒超微細化と機械的性質の改善、さらには単純強圧延と時効の組み合わせプロセスによる巨大ひずみ加工材と同等の強度の発現を目指す。 粉末冶金プロセスと超強加工プロセスとを融合させ、高機能性材料を創製する。平成25年度は、アルミニウムやマグネシウム等の軟質材料、ならびに、TiAl等の金属間化合物や高速度鋼のような硬質材料について、結晶構造、積層欠陥エネルギーの大小、第2相生成等の観点から詳細な検討を行う。特に、変形機構について加工硬化挙動やき裂発生・進展挙動に観点から詳細な検討を行う。 掃気処理やパルス電析がナノ組織に及ぼす影響を透過電子顕微鏡観察や小角散乱法により明らかにし, 掃気処理条件を制御することによって, ナノ組織の最適化を行い, さらなる高強度高延性化を図る。
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