研究領域 | 対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象 |
研究課題/領域番号 |
22103002
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
前野 悦輝 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80181600)
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研究分担者 |
浅野 泰寛 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20271637)
入江 宏 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, その他部局等, 研究員 (20646856)
柏谷 聡 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 首席研究員 (40356770)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | トポロジー / 超伝導材料・素子 / スピン三重項超伝導 / 奇周波数超伝導 / 時間反転体操性 |
研究概要 |
(1) Sr2RuO4バルク超伝導体の未解決現象の解明 (前野、米澤、石田;三宅(B01班)):比熱から上部臨界磁場での超伝導転移が1次であることを確定的にし、面内磁場方向依存性についても調べた。また国際共同研究での中性子回折実験で、面平行磁場中での磁束状態を論文発表した。 (2) Sr2RuO4微小結晶を用いたトポロジカル超伝導現象の確立(柏谷、前野、米澤;田仲(D01班):微結晶/金の接合素子でカイラル・エッジ状態を明確にし、多バンド効果を含めることでスペクトル形状の多彩性を説明した。また微小超伝導量子干渉素子(SQUID)を用いた局所磁場測定から時間反転対称性の破れた超伝導状態を検証して論文投稿した。さらに半整数フラクソイド状態の検証に向けた微結晶リングでの輸送特性測定から磁束量子振動を観測した。 (3) Sr2RuO4共晶接合系でのトポロジカル超伝導現象の開拓(前野、寺嶋、柏谷、浅野):s波超伝導体と Sr2RuO4-Ru共晶による「トポロジカル超伝導接合」特有の振舞がカイラル・ドメインの運動に基づくモデルで理解できることを論文発表した。(4) 強磁性体を含む超伝導接合系の研究(入江、柏谷、浅野):強磁性半導体とs波超伝導体の接合素子で、ギャップ中心での状態密度の観測をさらに進めた。 (5) マヨラナ準粒子と奇周波数超伝導(浅野;田仲(D班)):トポロジカル超伝導体と金属ナノ細線の接合系で出現するマヨラナ準粒子と奇周波数超伝導状態の密接な関係を導いて論文発表した。 (6) A01メンバーと後期公募研究代表者の集中連携研究会で研究目的の認識共有を図った。また、「Sr2RuO4の超伝導対称性とトポロジカル超伝導」の集中連携研究会を開催した。C班との連携では反転対称性破れの超伝導状態の研究を論文発表し、電場誘起超伝導の2次元超伝導状態の特徴を論文発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Sr2RuO4の超伝導転移が一次相転移であることを熱磁効果に加えて比熱からも検証できた。また核磁気共鳴では測定精度を飛躍的に高めてスピン三重項超伝導性を確証できた。これらから超伝導対称性の未解明問題の解決に向けて格段に緻密なデータが揃ってきた。 微細加工を駆使してSr2RuO4での接合素子やSQUID が再現性良く作製できるようになったことで、いくつもの研究成果が生まれた。トポロジカル超伝導状態を特徴づけるカイラルエッジ状態の状態密度を観測し、多バンド構造も考慮に入れたうえでトンネルスペクトルを理解できるようになった。また超伝導状態の時間反転対称性の破れを反映するカイラルドメイン構造で説明できる特異なふるまいをする「トポロジカル超伝導接合」についても論文発表にこぎつけた。ミクロンサイズのSr2RuO4リングの弱磁場中電気抵抗測定からはフラクソイド量子化現象が明確に観測できたので、半整数フラクソイド状態生成への準備が整った。また従来型の超伝導体と強磁性体の接合などを舞台に「奇周波数超伝導状態」の本質理解が深まった。
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今後の研究の推進方策 |
ルテニウム酸化物Sr2RuO4(SRO)の微小単結晶や、強磁性半導体・超伝導体接合素子などを用いて、トポロジカル超伝導現象の実証をさらに進める。また対応するトポロジカル状態の量子ホール効果の系についても、連携研究者や公募研究との連携・交流を進める。 (1) Sr2RuO4(SRO)の超伝導対称性の確定を目指す研究:比熱や磁気熱量効果による研究成果も生かし、すべての観測事実の整合性をさらに吟味する。 (2) SRO を用いたジョセフソン接合素子、超伝導量子干渉素子(SQUID)による研究:(2-1) SRO とNb の間にジョセフソン接合を安定に形成する技術を活用して、超伝導対称性、特に波動関数の位相情報を得る実験を行う。(2-2) コーナージョセフソン接合、コーナーSQUID を作製して、磁場応答および臨界電流の磁場応答から、カイラル超伝導特有の回転型の内部位相およびカイラルドメイン構造を検出する。 (3) 半整数磁束量子に関する研究: 微小単結晶リングや多重SQUID 構造の素子を作製し、超伝導転移温度の磁場中振動から、半整数フラクソイド状態の検証を行う。 (4) 強磁性/超伝導接合でのトポロジカル量子現象の研究: 強磁性半導体/超伝導体接合で、強磁性体内に誘起される奇周波数スピン三重項状態の研究を理論・実験両面から進める。強磁性半導体の膜厚によって磁化容易軸が面内から面直に変化することを利用して奇周波数スピン三重項状態の存在の実証を目指す。 (5) 奇周波数超伝導状態とマヨラナ型準粒子の理論的研究: T 字型接合における奇周波数電子対の役割を明らかにする。また、s 波超伝導体とトポロジカル絶縁体から創る新奇なトポロジカル超伝導状態の近接効果を調べ、マヨラナ型準粒子と奇周波数電子対の間の関連性を解明する。
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