研究領域 | 対称性の破れた凝縮系におけるトポロジカル量子現象 |
研究課題/領域番号 |
22103003
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
石川 修六 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90184473)
|
研究分担者 |
野村 竜司 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (00323783)
東谷 誠二 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (70304368)
三宅 和正 公益財団法人豊田理化学研究所, フェロー事業部門, 常勤フェロー (90109265)
中原 幹夫 近畿大学, 理工学部, 教授 (90189019)
高木 丈夫 福井大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00206723)
池上 弘樹 独立行政法人理化学研究所, 主任研究員研究室等, 専任研究員 (70313161)
|
研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
|
キーワード | 超流動ヘリウム3 / 巨視的固有角運動量 / 表面マヨラナ準粒子 / 異方的超伝導・超流動 / 奇周波数超伝導・超流動 / 半整数量子渦 / 横波音響抵抗 / トポロジカル相転移 |
研究概要 |
石川は、回転する超流動ヘリウム3-A相での巨視的角運動量の検出実験より、巨視的角運動量の存在を観測したという結論を得た。超流動ヘリウム3発見以来の大難問を解決したことになる。また、エアロジェル中液体ヘリウム3と超流動ヘリウム3と接合界面で、低温でのNMR帯磁率の増加を観測した。東谷は、この界面で起こる新奇現象として予想していた、奇周波数クーパー対の形成に伴う異常なスピン帯磁率の増大について、この現象を観測すべく蓄積してきたNMR測定のデータが、実験条件を考慮した詳細な数値計算結果と整合することを見いだした。 野村は、超流動3He-B相に磁場をかけて横波音響抵抗を測定し、表面マヨラナ状態の磁気応答を調べた。ゼロ磁場中の温度依存性で見られた音響抵抗のピークが、磁場によるエネルギーギャップの歪みにより消失し、より低温側での音響抵抗の落ち込みを見出した。この落ち込みの磁場依存性は、トポロジカル相転移によるゼロエネルギーギャップの生成を示唆する。 三宅は、フェルミ準位近傍の状態密度が顕著なエネルギー依存性をもつSr_2RuO_4のようなESP超伝導状態においてスピン起源の自発的時間反転対称性が破れることを示した。これは超流動3He-A相の発見以来40年の間気付かれなかった現象である。中原は、超流動ヘリウム3-A相での半整数量子渦1本の安定条件研究を発展させ、回転時の整数渦と半整数渦の自由エネルギー比較より、複数の半整数渦が存在する領域を磁場-回転数平面で示した。高木は、平板中の半整数量子渦のNMRの計算を行い、渦が三角格子を作るときNMRの横共鳴振動数のシフトが、回転速度の1次関数となることを示した。池上は、A相においてイオンが受ける固有マグナス力を利用してchiral domain wallおよびlinear boojumの観測するための最適な電極構造を数値計算により模索した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的はスピン三重項p波超流動体の新奇現象を探求し、トポロジカル量子現象としての普遍的な概念の構築を目指すことである。A相での巨視的固有角運動量の検出実験では、円筒容器内のMermin-HoテクスチャでのNMR周波数の回転角速度依存性が非対称となることを得た。これを巨視的固有角運動量の存在を仮定した複数のモデルでの数値計算結果と比較して、あるモデルだけが実験結果を定量的に説明することが分かった。巨視的角運動量の存在を示しただけでなく、理論考察に対する方向を示し、超流動ヘリウム3の発見以来の大難問に対して答えを出したものである。自由表面下のイオンによる実験は、A相の局所的な固有角運動量が示すカイラリティに関する顕著な結果を示した。超伝導・超流動体の界面に形成されると予想されている奇周波数クーパー対を、エアロジェルと超流動3Heを利用して検出する試みが成功しつつあり、今後、十分に理論と実験の整合性が検証されれば、奇周波数クーパー対の存在が実証されると期待できる。同様な奇周波数超伝導状態の検出実験を鼓舞するものとなり得る。 超流動3He-B相に磁場をかけて横音響抵抗の測定より表面マヨラナ状態の磁気応答を調べることに成功した。理論計算結果との比較より、トポロジカル相転移によるゼロエネルギーギャップの生成を示唆する結果を得た。 フェルミ準位近傍の状態密度が顕著なエネルギー依存性をもつSr_2RuO_4のようなESP超伝導状態においてスピン起源の自発的時間反転対称性が破れることを示した。 トポロジカル量子現象としての普遍的な現象である、固有角運動量の局所的存在さらに巨視的(大局的)な存在を明らかにし、界面での新奇な奇周波数クーパー対の存在の実証がされつつあり、表面マヨラナ状態の磁気応答はトポロジカル相転移の観測に成功するなど概ね順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画の変更はない。 異方的超伝導・超流動状態に固有な新奇量子渦状態である半整数量子渦の観測を超流動ヘリウム3-A相で目指す。石川が(NMR+回転)実験を進め、中原、高木の理論研究者と共同して進める。 エアロジェル界面での奇周波数クーパー対状態の観測では、固体ヘリウム3が全く存在しないことを示す実験を行い、実験と理論の整合性を高めていく。石川が実験を進め、東谷、三宅の理論研究者と共同して進める。東谷は、奇周波数クーパー対が生み出す「負の超流動密度」に起因する超流動3He薄膜の熱力学的不安定性を議論し、制限空間で安定化する新超流動相の可能性を検討する。 三宅は、Sr_2RuO_4における、1)スピン自由度起源の時間反転の破れの観測可能性、2)固有角運動量の観測の方法、に関する理論的分析。Quartet, Sextet凝縮のGL理論の構築。カイラル超流動・超伝導の回転系での自由エネルギーの構造について再考する。 野村は、磁場中において超流動ヘリウム3ーB相のトポロジカル相転移を示唆する特徴的振る舞いを観測した。より広い磁場範囲で横波音響抵抗測定の測定を行い、横波音響抵抗の詳細からトポロジカル相転移の有無を吟味する。東谷の理論研究と共同して進める。池上は、カイラルドメイン壁、ブージャン等のA相でのトポロジカル特異点の測定準備が整ったので、実験研究を進める。
|