研究概要 |
本研究グループでは,次世代半導体デバイスや熱電素子,電池等工ネルギー変換素子への応用を念頭に,第一原理分子動力学法を用いてナノ構造体や新材料の熱科学の解明を目的とする.具体的には,材料およびナノ構造体の熱伝導度,熱膨張率,熱破壊の前駆現象,固液相変化とナノスケールでの相関や揺らぎ,分子固体中や分子/電極界面での電子移動による再配置エネルギーと電子移動度など,原子間相互作用の非調和性が本質的に重要となる大きな原子変位を伴う非平衡物理現象の予測と,ダイナミクスの解明を目指している.本年度は次のような成果を上げた. (1)平面波基底第一原理計算での交換相互作用計算を加速するため,GPGPUの利用を試み,価格性能比の観点で十分な性能を得ることに成功した. (2)6次の非調和項まで含めた非調和格子模型を第一原理分子動力学法の結果から導出することに成功し,それを非平衡分子動力学法に用いて幅広い温度領域での熱伝導シミュレーションを安定に実行できることを示した.バルクSiの高温熱伝導度を計算し,実測データの外挿値と定量的に良く一致する結果を得た. (3)固液界面の電気二重層の第一原理分子動力学計算を行い,電位を評価する新たな手法を導入して,非経験的にHelmholtz層の静電容量を求めることに成功した。その結果,Helmholtz層の新たな微視的描像を得た. (4)電池系のモデリングに有効な,滑らかに無限大へと変化する誘電率の関数を用いるsmooth ESM法を開発した.(5)擬ポテンシャル法で結晶中の欠陥による内殻XPSを高精度計算する手法を用いて,シリコン中のBを含む欠陥系の境界条件評価を踏まえた理論計算を行い,実際の実験データと比較してその有効性を実証した. (6)グラフェンとGaN,AlNの界面構造を調べ,引っ張り応力による大きな構造変化を予測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画で目指す熱科学のシミュレーションに役立つ新しい手法として,第一原理に基づく非調和格子模型の導出法を確立し,非平衡分子動力学法への応用を実現してその有用性を実証することができた.また電場印加時の電極溶液界面シミュレーション手法として,Smoth ESM法と,電気二重層の静電容量評価法を考案した.これらは当初計画通り,もしくはそれ以上の進展である.またこのような計算手法の基盤となる平面波基底を用いた第一原理分子動力学法のコード整備も順調に進んでいる.計算機科学研究者との連携に関しては努力を要する.
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では博士研究員を雇用して研究を加速する予定であったが,計算科学関連プロジェクトが多数あることから,現時点までに適切な候補者を見つけることが出来ていない.優秀な博士課程学生の参加により研究計画自体は順調に進めることができたが,今年度はソフトウェア開発の一部を外注することによって研究の加速を図る一方,H25年度から雇用できる博士研究員候補者を探す予定である.
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