研究領域 | コンピューティクスによる物質デザイン:複合相関と非平衡ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
22104008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中西 寛 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40237326)
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研究分担者 |
下司 雅章 大阪大学, ナノサイエンスデザイン教育研究センター, 特任准教授 (70397660)
後藤 英和 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80170463)
WILDE Markus 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (10301136)
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キーワード | 物性理論 / 物性実験 / 量子シミュレーション / 計算科学 / 水素 / ミューオン(ミュオン) / 表面 / 量子効果 |
研究概要 |
本研究は、物質環境下でプロトン・ミューオン等の軽い核として振る舞う粒子も第一原理で扱う量子シミュレーションコードを開発するとともに、実験手法も交えて様々な物質系における軽い核の量子論的振る舞いを探り新規物性を探査している。これまで開発してきた第一原理量子シミュレーションコードNaniwaを、計算科学的見地から見直し、速度を落とさず広範囲の様々な物質環境に対応する改良コードを開発した(特願2012-16133)。これにより、水素を含む様々な物質系、反応系を探査し、多様な水素の振る舞いを明らかにしてきた。量子シミュレーションに多体効果を高精度に取り入れる高速な計算手法の開発では、共鳴H.F.法でFukutomeらにより提案された非直交スレーター行列式による基底を用いる方法を改良して行った。その結果、99%以上の相関エネルギーを100個以下のスレーター行列式で計算可能となった。高圧系物性探査では、純粋水素よりも水素化合物の方が、高圧での転移が容易になると示唆され、AlH3を主体として調査した。第一原理計算の結果、300GPa付近で金属から非金属へ転移し、水素は完全にヒドリドになることを確認した。この現象は実験で確認出来る可能性が高いと考えられる。表面反応系での物性探査では、同位体で弁別した水素(H,D)の吸脱着実験と水素深さプロファイリングで、パラジウム単結晶表面からの水素吸収機構を調査した。その結果、気相から飛来する水素分子が原子に解離してホットアトムが供給され、あらかじめ吸着していた水素原子と入れ替わり、吸着していた水素原子が0.1eV未満の活性化障壁で表面内へ吸収されることが分かった。これら反応機構の解明は、水素付加反応の触媒材料開発やクリーン水素エネルギー活用の為の水素精製の技術開発にも寄与するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
開発したシミュレーションコードを様々な物質系に応用し、量子現象の探査を行い、またその結果をコード開発にフィードバックして研究を加速する計画であった。その為には、多量のデータを整理し、シミュレーション結果を解析するための人員が必要で、その雇用を計画していた。しかし、その研究員の雇用上の問題が生じ、平成24年度へ人件費の一部を繰り越し、その部分の研究を平成24年度に実施することになった。シミュレーションコードの開発自体は、平成23年度の計画通り推移し、また、シミュレーションの応用研究以外の他の研究は計画通り進んだ。繰り越した人件費により平成24年度に人員の確保ができ、その応用研究も推進することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 「物質環境下におけるプロトン・ミューオンの第一原理計算手法の開発と応用」:開発中の量子シミュレーションコードNaniwaにおいて、ホスト物質系の空間対称性を活用して、固有エネルギーの計算精度を向上させるルーチンを実装する。これを活用して空間対称性による固有エネルギー縮退のより正確な取り扱いを要する現実物質環境下でのプロトン・ミューオンの量子ダイナミクスを解析し、新規物性を探査する。 (2)「多体系量子状態計算手法の開発」:精度向上は果たせたが、計算時間については実用的なレベルにまで至っていない。そこで、非直交基底の作成方法について、より短時間で基底状態に到達するための工夫を提案するとともに、コード作成と実用試験を行う。 (3) 「高圧下における金属水素化物にみる水素効果」:各圧力で最も安定な構造を計算上で決定する構造探索法の開発に取り組み、実験に先駆けて新高圧相の探索と決定を行い、そこでの新規物性を提示できることを目指す。 (4)「 固体表面における水素吸収ダイナミクスと触媒反応性」: Pd(110)単結晶表面における水素吸収について量子性に注視しつつ、レーザー分光法によりそれぞれの吸収状態から脱離する水素の量子様態を観測し、その吸収機構を研究する。
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