研究領域 | コンピューティクスによる物質デザイン:複合相関と非平衡ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
22104008
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中西 寛 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40237326)
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研究分担者 |
WILDE Markus 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (10301136)
下司 雅章 大阪大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (70397660)
後藤 英和 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (80170463)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 物性理論 / 物性実験 / 量子シミュレーション / 計算科学 / 水素 / ミューオン(ミュオン) / 表面 / 量子効果 |
研究概要 |
本研究は、物質環境下におけるプロトン・ミューオン等の粒子の振る舞いに関する理論的取り扱い方法、およびその計算コードを開発し、シミュレーション手法と実験手法とを併用して、その量子ダイナミクスを探り、それら粒子の関わる新規物性を探査している。 量子ダイナミクスシミュレーションNaniwaにおいて、結晶構造の空間対称性を活用して固有値計算精度を上げる手法を開発し、そのルーチンをコードに実装して、物質環境下のプロトンおよびミューオンの量子状態を探査した。これにより、空間対称性により縮退する固有エネルギーをより正確に計算できるようになった。多体効果を高精度に取り入れる計算手計の開発においては、昨年度、計算コストの大きかったハミルトニアン行列要素の更新方法に改良を加えた結果、計算コストを基底関数の数の4乗以下に抑えることができた。高圧水素系の物性探査においては、昨年度から始めた、AlH3高圧相での金属-絶縁体転移の可能性を追求した。今回新たに400GPa付近では、考慮した可能な構造の中でPm3~n構想が最もエンタルピーが低いことを示し、また、電子系のエネルギーギャップをより正確に考慮できるGW近似法を用いても、Pm3~n構造でギャップが開くことを示せ、金属―絶縁体転移が実験で観測可能な圧力域で存在しうる確度を高めた。表面―水素反応系における物性探査実験では、パラジウム(110)単結晶表面でのcis-2-butene→butaneの不飽和炭化水素の水素化触媒反応を調査した。その結果、表面吸着水素ではなく、表面下のサブ表面水素とパラジウムのバルク水素化物が、Pdナノ粒子の場合と同様に、触媒活性に寄与していることが分かった。しかし、cis-2-buteneと共吸着する表面吸着水素は、互いに複雑に影響し、熱脱離スペクトルにおいて相互変換を示すこともわかった。 連携研究者:福谷克之,笠井秀明,Wilson Dino 研究協力者:広瀬喜久治
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
シミュレーション実行を分担する人材を獲得でき、元計画に復帰することができた。さらに開催したCMDワークショップに、受講生としてミュオン実験研究者に参加していただけたのを機会に、シミュレーション手法ノウハウの伝授が行え、シミュレーション活用研究領域の発展・研究者コミュニティの拡大に寄与することが出来た。他の新学術領域の研究、特にその実験グループと強力な連携を開始することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)物質環境におけるプロトン・ミューオンの第一原理計算手法の開発と応用:量子シミュレーションコードNaniwaにおいて、昨年度実装した、対称性補正のルーチンを活用して、共有結合性物質中をターゲットにする予定である。また、そのフィードバックからコードの更なる改善を実施し、新規物性を探査する。 (2)多体系量子状態計算手法の開発:電子・プロトン・ミューオンから成る多体系の量子状態計算が可能な簡便で高精度な手法開発を、昨年度に引き続き行う。最も計算負荷の高い行列要素更新アルゴリズムの改良を行うことで、計算量をさらに基底関数の数の3乗以下にまで削減することを目標とし、計算コードの作成および実用試験計算を行う。 (3)高圧下の水素新物性の探査:高圧下での様々な物理量を計算する上で構造を決定することが不可欠となるが、より高精度な探索法の開発に取り組むと、同時に、昨年までの成果で高圧下での金属-半導体転移のような現象が起こりうるより詳しい原因の解明も行う。また、金属水素化物の水素量によって構造や電子状態に与える影響を調べ、実験的観測が困難な水素の状態の知見を与える計算を試みる。 (4)金属表面における水素吸収ダイナミクスとその制御:昨年度に引き続きPd単結晶表面における水素吸収過程と吸収した水素の状態を観測する。昨年度、Pd(110) 清浄表面に吸着した水素原子と気体水素分子との間で同位体交換が起き、この過程の活性化障壁が100meV以下であることを明らかにして、この反応機構を新たに提案した。そこでは表面欠陥が重要な役割を果たすことが分かった為、次に原子レベルで制御し作成した様々な種類の欠陥表面での吸収過程を調べる予定である。これらの知見は、イオン衝突で作成した欠陥、又は表面に他の金属を混ぜて合金化した試料を用いての、水素の吸収速度および吸収量の制御実現に有用である。
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