研究領域 | コンピューティクスによる物質デザイン:複合相関と非平衡ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
22104011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高田 康民 東京大学, 物性研究所, 教授 (00126103)
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研究分担者 |
白井 光雲 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (60178647)
前園 涼 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 准教授 (40354146)
前橋 英明 東京大学, 物性研究所, 助教 (30361661)
吉澤 香奈子 上智大学, 理工学部, 研究員 (70439339)
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キーワード | 物性理論 / 計算物理 / 超伝導材料・素子 / 強相関電子系 / 金属物性 / 第一原理計算 / 超伝導 / 転移温度 |
研究概要 |
主にグリーン関数法に基づき、第一原理系の多電子問題を励起状態も含めて忠実に解くことを目指す。具体的には、電子の自己エネルギーについて、フェルミ流体だけでなくラッティンジャー流体にも適用可能なGW\Gamma法を発展させ、そのコードを開発する。また、密度汎関数超伝導理論(SCDFT)との対応を重視しつつ、超伝導転移温度Tcを定量的に計算できるスキームとコードを開発し、超伝導の微視的機構の本質に迫る。 平成23年度には、GW\Gamma法の超並列コードの開発に成功し(櫻井・高田)、電子ガス系での計算が数百倍に加速された。それを用いて運動量分布関数n(p)が高精度に決定された。同時に、低密度系ではn(p)に特異な振る舞いが発見された。その特異性の起源は自己誘起する電子正孔励起と推定できたが、その物理を高精度に取り扱うために\Gammaのよりよい汎関数形を考案した(前橋・高田)。また、この\Gammaの高精度化と関連してDFTにおける交換相関ポテンシャルVxc(r)の新情報を得るために、1原子埋め込み電子ガス系を拡散モンテカルロ法で調べた(前園)。そして、原子近傍での電子分布をカスプ定理の活用とLDAにおけるサイズ効果との比較から高精度に決定した(吉澤)。 超伝導に関しては、ホウ素系や炭素系での超伝導物質探索を行い、特に、高圧下ホウ素のα相にドープすれば超伝導になると予測し(白井)、実験的にTc~6Kの超伝導が得られた。この他、ボーズ凝縮研究の一環として、2準位原子と電磁波との結合系であるJaynes-Cummingsモデルにおけるポラリトンの量子相転移を調べ、通常は無視されている反回転波結合項の重要性を見いだした(Zheng・高田)。これはその項がポラリトン数の局所保存則を破り、南部ゴールドストーンの定理も破るためであるが、その結果、基底状態の相図や低励起状態の様相が一変する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GW\Gamma法の超並列化コードの開発という課題は優先度が高いが、その遂行には若い有能な研究協力者の研究員が必要であった。そこで、平成22年度の比較的早い時期に人事公募を出して平成23年4月着任を予定していたが、結局、平成23年10月まで適当な人材が見つけられなかった。そのため、半年の遅れが出た。その後、コード開発には成功した(櫻井)が、そのコードで得られた計算結果の物理的解釈のために、\Gammaのスキーム自体を解析的に見直すことが必要になり、その見直しにも成功した(前橋・高田)が、得られた進化した\Gammaの汎関数形を組み込んだコード開発のためにさらに半年の遅れが出て、結局、このGW\Gamma法に関連した課題は、そのラッティンジャー流体への応用も含めて、全体として約一年ぐらいの遅れになっている。 一方、1原子埋め込み電子ガス系の研究という課題や超伝導に関する課題は順調に進んでおり、特に、後者においては当初は考えていなかったポラリトン凝縮の問題などのいろいろなテーマにも取り組んで成果が挙がっている。その中でも、Tcの第一原理計算におけるグリーン関数法のアプローチとSCDFTのそれとの違いについて、当初はあまり明確でなかったが、研究を進めた結果、その違いが概念的に明確にされ、強相関強結合領域でも基本的にどうすればよいかということまで分かったので、当初の計画以上にずっと進展しているといえる。 以上取りまとめると、課題ごとに進み具合は異なるが、いろいろな課題全体としてみれば、やや遅れているという判断になる。
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今後の研究の推進方策 |
1原子埋め込み電子ガス系や超伝導に関する課題は順調に進んでいるので、これまで通りの方針で進めていけばよいと考えている。 GW\Gamma法関連の課題は、当初、不均一系に展開することを主たる目的と考えていたが、均一系でも低電子密度系や低次元系では、この新しい手法で精密に計算することで新しい物理が開拓できることが分かってきたので、今後は物理開拓に重点を置き、不均一系への展開は余裕があれば行うことにしたい。実際、現状の計算機資源では、GW\Gamma法よりもずっと難易度の低いGW近似の段階でも不均一金属への展開がなされていないことを考えれば、GW\Gamma法の不均一系への展開は少し後の段階になっても仕方がないものと思える。
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