研究領域 | コンピューティクスによる物質デザイン:複合相関と非平衡ダイナミクス |
研究課題/領域番号 |
22104011
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高田 康民 東京大学, 物性研究所, 教授 (00126103)
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研究分担者 |
白井 光雲 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (60178647)
前園 涼 北陸先端科学技術大学院大学, 情報科学研究科, 准教授 (40354146)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 物性理論 / 計算物理 / 超伝導材料・素子 / 強相関電子系 / 金属物性 / 第一原理計算 / 超伝導 / 転移温度 |
研究概要 |
低密度電子系の自己エネルギー\Sigmaをバーテックス補正も含めて精度よく求める研究を進めている。今年度は運動量分布関数を電子密度径数rsが20を超えるごく低密度領域まで求め、rs~15で電子ガス系は質的に新しい状態に移行するとの示唆を得た(高田)。また、虚軸上の\Sigmaを実軸上に数値的に解析接続するパデ近似を大改良したところ、一電子スペクトル関数A(p,w)中の多重プラズモン励起等の細かな構造が明らかになった(高田)。さらに、1次元系でのA(p,w)を詳しく解析し、ホロンやスピノンに加えて「ラッティンジャー流体中の擬電子」という概念で捉えられる構造を発見した(前橋・高田)。この構造はwの増大とともにべき的なものから加減衰状態を経て、ついにはA(p,w)を支配する。 基底状態に関して、電子ガス中の1原子問題をDMCで詳細に調べているが、今年度は陽子挿入系について電子の総数を60個から170個に増やしても収束した結果が得られた(前園・高田)。この問題は近藤共鳴状態の第一原理からの再吟味であると共に、DFTにおける交換相関エネルギー汎関数Exc[n(r)]の決定にもつながる。今年度は、局所密度近似を超えて、DMCの電子密度n(r)を再現するExc[n(r)]の新汎関数形を得ることに成功した(高田・吉澤)。 第一原理からの超伝導転移温度Tcの計算に関して、密度汎関数超伝導理論とグリーン関数法を融合した弱相関系で有効な手法の開発を終えた(櫻井・高田)。そして、低密度金属系一般における超伝導発現機構の普遍性と多様性を調べるという観点で、今年度からESPCIパリテクのK. Behniaの実験グループと協力してSTO系における強誘電量子相転移と超伝導の絡みの問題を考え始めた(高田・櫻井)。また、物質・材料の観点からボロンカーバイト系、特にB13C2での超伝導出現可能性を議論した(白井)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
低密度金属を記述するハミルトニアンは低密度電子ガス系のそれに還元されるので、低密度金属の普遍的な振る舞いは電子ガス系のそれの研究で解明される。したがって、昨年度まで従事していた正常相における低電子密度電子ガス系で定量的に正確な自己エネルギーの計算は、それ自体、意味深いことであるが、今年度はそこから一歩抜け出して、(おそらく自発的励起子形成に伴う)新たな多体秩序状態の手がかりを得たことは大きい。また、LDAを超えて、典型的な強相関電子系の問題である近藤系に通用する交換相関エネルギー汎関数を新たに構成できたことは特筆に値する。さらに、量子相転移と超伝導の絡みという興味深いテーマに遭遇したことも研究の新たな進展をもたらした。このように、いろいろな側面で新たな展開を生み出したので、順調に研究が進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
上に述べたように、全ての研究が新たな展開を生み出したので、それらの新しい芽を早期に論文にまとめるとともに、より大きく育てるように努力する。特に、新たに構成した交換相関エネルギー汎関数をいろいろな物質系に適用してその汎関数形のチューンアップを図りながら、将来、これがDFTにおいてLDAに取って代わるデフォルトの交換相関エネルギー汎関数になるような展開を企図している。それと同時に、これを用いて、物質科学の最重要課題の一つである超高圧下の金属水素の問題、とりわけ、その詳しい相図の作成を目論んでいる。
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