研究概要 |
持続可能社会の実現には,既存の有機合成がもたらす環境負荷を大幅に低減する必要があるが,既知反応の改良には限界があり,全く新しい概念に基づく新しい有機合成反応の創出が急務である。そのような背景から申請者は,ニッケル触媒とルイス酸触媒を複合的に利用して,その協働作用によって初めて達成できる不活性結合の新規変換反応をこれまでに多数開発してきた。本研究では,これを発展させ,低原子価遷移金属と高原子価金属(ルイス酸性金属)を複合的に利用し,その協働触媒作用によってC(sp3)-H,C-C,C-N,C-0結合を活性化することによって,有機分子を事前に官能基化することなく環化付加反応や付加反応,閉環反応,カップリング反応を行なう新しいC-C結合形成手法の開発を行なっている。平成23年度は,ニッケルとアルミニウムの協働触媒による1-アルケンの位置選択的ヒドロカルバモイル化反応の開発に成功した。また,同様の協働触媒系によりピリドン類の位置選択的アルキル化反応の開発にも成功した。前者の反応は,直鎖アルカンアミドの新しい合成手法を供する点で,有機合成化学的にも重要であるだけでなく,工業的にも重要な1-アルケンの逆マルコフニコフ型官能基化を,きわめて高い選択性で実現する点で重要な成果である。一方,後者の反応は,医薬や生理活性天然物に多く見られるピリドンの直截的官能基化を実現する他に例のない有機合成手法として,医農薬の高効率な探索研究にも寄与する重要な研究成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請に記載したC(sp2)-H結合へのanti-Markovnikov型アルケン挿入反応の開発について,ホルムアミドとピリドン誘導体の2種類のC(sp2)-H結合の活性化を経る反応系の開拓と,基質適用範囲の確立を完結することに成功した点において,想定以上の成果を得ることができたと考えられる。一方,「メタラサイクル形成を経るC(sp3)-H結合の直接変換反応」については,依然としてこの種の分子変換を実施できる基質構造の探索を行なっている最中である。したがって,総合的には「おおむね順調に進展している」と判断するに至った。
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