研究実績の概要 |
持続可能社会の実現には,既存の有機合成がもたらす環境負荷を大幅に低減する必要があるが,既知反応の改良には限界があり,全く新しい概念に基づく新しい有機合成反応の創出が急務である。そのような背景から申請者は,ニッケル触媒とルイス酸触媒を複合的に利用して,その協働作用によって初めて達成できる不活性結合の新規変換反応をこれまでに多数開発してきた。本研究では,これを発展させ,低原子価遷移金属と高原子価金属(ルイス酸性金属)を複合的に利用し,その協働触媒作用によってC(sp3)-H, C-C, C-N, C-O結合を活性化することによって,有機分子を事前に官能基化することなく環化付加反応や付加反応,閉環反応,カップリング反応を行なう新しいC-C結合形成手法の開発を行なっている。平成24年度は,パラジウムとホウ素の協働触媒によってO-CNおよびN-CN結合を活性化し,アルケンを分子内挿入させて,β-アルコキシニトリルおよびβ-アミノニトリルを原子効率よく得る新しいシアノ官能基化反応の開発に成功した。ニトリルは,多くの生理活性物質に含まれているうえに,カルボニルやアミノメチル基などに容易に変換できるため,合成中間体としても汎用されている。したがって,効率のよいシアノ基導入手法の開発は,有機合成における重要課題の一つであり,現在でも極めて活発に研究されている。アルケンやアルキンなどの不飽和結合に,シアノ基と官能基を付加させる本シアノ官能基化反応は,入手容易な出発物質から高度な構造を有するニトリルを一挙に得ることができるため,極めて有用なニトリル合成手法である。
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