研究領域 | 直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発 |
研究課題/領域番号 |
22105005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 正浩 京都大学, 工学研究科, 教授 (20174279)
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キーワード | 非対称化 / 炭素-炭素結合切断 / β炭素脱離 / ロジウム / ニッケル / パラジウム / 挿入 / 不斉合成 |
研究概要 |
ピペリジンは様々な天然物、医薬品、農薬に広く見られる重要な構造モチーフである。本研究では我々が以前に開発したニッケル触媒による炭素-炭素結合へのアルキン挿入反応を、アミノ酸を原料として光学活性多置換ピペリジンを立体選択的に合成する手法に展開した。まずはSeebachらの報告に基づいて、アミノ酸から光学活性なアゼチジノンを合成した。続いて、合成したアゼチジノンの炭素-炭素結合へ4-オクチンを挿入する反応について検討を行った。その結果、触媒としてニッケル0価とトリフェニルボスフィンからなる錯体を用いると効果的であり、その光学純度を損なうことなく挿入反応が進行して、キラルなデヒドロピペリジノンが生成することを見いだした。この手法はアラニンのみならず、フェニルアラニンやバリン、リシン、メチオニンなどのアミノ酸にも有効であり、対応する光学活性なデヒドロピペリジノンを得ることができた。また、得られたデヒドロピペリジノンに水素化ホウ素ナトリウムを作用させると、ジアステレオ選択的にカルボニル基が還元されてアリルアルコールを与えた。さらにこれをCrabtree触媒で水素化すると、ヒドロキシル基の配向基効果によってジアステレオ選択的にオレフィン部位が還元された。この手法により、従来法では選択的に合成することが困難であった四置換ピペリジンを立体選択的に合成することができた。また、本研究課題ではこの成果に加えて、ロジウム触媒によるベンゾシクロブテノールへのアルキン挿入反応やパラジウム触媒による炭素-炭素結合とケイ素-ケイ素結合のσ結合メタセシス反応、シクロブタノンへの不斉アルケン挿入反応を用いたベンゾビシクロ[2.2.2]オクテノンの効率的不斉合成法の開発など、学術的に重要な成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は当初の計画のとおり、ロジウム触媒を用いたベンゾシクロブテノールへの位置選択的アルキン挿入反応と、入手容易な光学活性α-アミノ酸から合成したキラルなアゼチジノンへのアルキン挿入反応によるエナンチオピュアなピペリジノールの合成法開発を実現した。また、これらに加えて、シクロブタノンへの不斉アルケン挿入反応を経るベンゾビシクロ[2.2.2]オクテノンの効率的不斉合成法の開発や、パラジウム触媒を用いた炭素-炭素結合とケイ素-ケイ素結合のσ結合メタセシス反応の開発など、当初の予定にはなかった重要な成果をあげることができたため「(1)当初の計画以上に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
持続可能な科学技術の確立に向けて、再生可能な炭素資源やエネルギー資源を有効活用した合成手法の開発が求められている。今後もこれまでに得られた知見をさらに押し進めることで、二酸化炭素やバイオマスとして得られる様々な炭素資源を活性化する新反応をデザインし、合成実験を実施する。さらには、開発した反応を活用した有用物質の効率的な合成戦略を提案、実現していくことで、反応の有用性を示すとともに、物質合成の新基盤を開拓していく計画である。また、以上のような合理的戦略に基づいて新技術を開発する一方で、このような未知の領域での合成実験では、予想していた反応や既存の反応のみならず、まったく予想だにしなかった、説明のできない結果が得られることもある。これらを見逃さず、その新規性、有用性について検証していくことで、研究の新展開の可能性を探る。
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