研究領域 | 直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発 |
研究課題/領域番号 |
22105005
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
村上 正浩 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20174279)
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研究期間 (年度) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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キーワード | 有機合成化学 / 非極性σ結合 / 炭素-炭素結合 / 炭素-水素結合 / 遷移金属触媒 / 光 |
研究概要 |
炭素-炭素結合や炭素-水素結合などの非極性σ結合は有機化合物の骨格をなす安定な結合であり、一般に反応性に乏しい。しかし、これらを特定の位置で選択的に切断して変換することができれば、基質としてハロゲンや金属元素を必要としない、効率的な合成手法になると期待される。本年度は(1)オルトシクロファンの炭素-炭素結合と炭素-水素結合を切断し、形式的に交換してメタシクロファンへと環拡大する手法と(2)N-アレーンスルホニルアゼチジノールの炭素-炭素結合と炭素-水素結合が入れ替わり、ベンゾスルタムが生成する骨格転位反応を見いだした。 (1)オルトシクロファンからメタシクロファンへの立体特異的な環拡大 サリチル酸から合成した10員環のオルトシクロファンに紫外光を照射すると、光環化反応がジアステレオ選択的に進行してシクロブテン骨格が形成された。続いて形成されたシクロブテンにロジウム触媒の存在下でメチルビニルケトンを作用させると、シクロブテン部位が開環してメチルビニルケトンに付加し、面性キラリティーを持つ12員環のメタシクロファンが立体選択的に生成した。種々検討した結果、このロジウム触媒反応は中心性キラリティーから面性キラリティーへの立体特異的な転写を伴って進行することが明らかとなった。 (2)N-アレーンスルホニルアゼチジノールからベンゾスルタムへの骨格転位反応 N-アレーンスルホニルアゼチジノールにロジウム触媒を作用させると、アゼチジン環の炭素-炭素結合とN-アレーン上のオルト位炭素-水素結合が切断されて形式的に交換し、ベンゾスルタムが生成することを見いだした。この反応を用いることで、様々なα-アミノ酸から光学活性なベンゾスルタムを立体選択的に合成できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画のとおりに、オルトシクロファンを環拡大して面性キラリティーを有するメタシクロファンを合成する手法を開発した。また、この過程において、炭素-炭素結合が切断される際に、ベンゾシクロブテノールの中心性キラリティーから面性キラリティーへの立体特異的な転写が起こることを実証した。この成果はNature Communicationsに掲載された。また、N-アレーンスルホニルアゼチジノールにロジウム触媒を作用させたところ、アゼチジン環の炭素-炭素結合とN-アレーン上のオルト位炭素-水素結合が切断されて形式的に交換し、ベンゾスルタムが生成することを見いだした。この反応を用いることで、様々なα-アミノ酸から光学活性なベンゾスルタムを立体選択的に合成できた。この成果はJournal of the American Chemical Societyに掲載された。これらを踏まえて「②おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
上述の結果を踏まえて、未踏の炭素-炭素結合切断反応に挑戦する。具体的には(1)オルトシクロファンから歪みを持つメタシクロファンへの環拡大、(2)三級ベンジルアルコールのベンゼンとケトンへの分解反応に取り組む。 すでにこれらの反応に関して予備的検討を行い、進行することを確認している。これらの反応に関して、①溶媒や触媒の配位子などの反応条件検討、②反応機構の解明を目的とした量論反応や量子化学計算、③有用物質や新規物質の合成検討や天然物の分解・改変検討を行う。これらの検討を通して実用に耐えうる触媒の開発や反応分子の構造変化の可視化、新規機能性材料の創製を目指す。 また、以上のような合理的戦略に基づいて新技術を着実に開発する一方で、斬新な反応の発見を目指したい。合成実験を実施していると、予想していた反応のみならず、説明のできない想定外の結果が得られることがある。これらを目的外の結果として斬って捨てずに、その新規性・有用性について随時検証する予定である。
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