現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アリールオキシド配位子が高活性な金属錯体を合成するのに有用であることをこれまでの研究で明らかにしてきた。得られた前周期遷移金属錯体を反応場として用いることにより、新しい分子活性化反応を見いだしており、研究目的を順調に達成しつつある。以下にその成果の一部を示す。 例えば、本研究で合した [{Ta(OCOO)}2(μ-H)3][M(L)2] (1-M; M = Li, Na, L = THF; M = K, L = DME)ではヒドリド配位子をもつシクロメタル構造が共存しており、C-H結合活性化が可逆的に進行し、錯体1-Mは低原子価種の前駆体として働く。錯体1-KとMe3SiCHN2をTHF中、室温で反応させると、 [{(OOO)Ta}2(μ-N)(μ-NCH2SiMe3)]- (2-K)が得られた。これは、ジアゾメタンをニトリドとイミドへと変換した初めての例である。また、一酸化炭素を1-Kに作用させると、COの還元的カップリング反応が進行することも見いだしている。 一方、嵩高いアダマンチル基を導入したフェノキシド配位子(2,6-diadamantyl-4-R-phenoxide; RArO-. R = Me, tBu)を用いたジルコニウム錯体(RArO)2ZrCl2とKC8の反応では、溶媒としてもちいたトルエンが2つの[(RArO)2Zr]フラグメントに挟まれた逆サンドイッチ型構造をもつ錯体[(RArO)2Zr]2(C7H8) (3)が生成する。錯体3に有機アジドAdN3を作用させると、窒素分子の脱離を伴いながら、イミド錯体(RArO)2Zr(NAd) (4)が生成する。反応過程でトルエンが脱離することで、錯体3は配位不飽和な低原子価種として働くことが明らかになった。 以上に示した様に、様々な高活性金属錯体を合成、単離する手法を見いだした。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究過程において、ヒドリド試薬を還元剤として使用してきたが、アルカリ金属塩等が副生し、化合物の単離・精製が困難な場合がある。そこで、アルキル錯体前駆体と水素ガスおよびヒドロシランとの反応から、ヒドリド錯体を経由した還元反応、活性種の発生法を検討する。また、副生成物であるアルカリ金属塩の混入を防ぐために、嵩高い置換基を配位子に導入する。シクロヘキシル基、ネオペンチル基、ベンジル基等の柔軟かつ嵩高い置換基を導入した配位子の設計・合成を行う。 補助配位子に関しては、低原子価状態を安定化できるリン配位子やN-ヘテロ環カルベンをアリールオキシド基とともに配位子骨格に組み込み、高原子価状態から低原子価状態まで幅広い酸化状態を安定化できる混合型配位子を設計・合成する。 上記で合成した配位子を基に、前周期遷移金属を中心に錯体を合成し、構造決定を行う。得られた前周期遷移金属錯体の各種スペクトル(CV, UV等)を測定し、その電子特性と結合状態を実験的に明らかにする。 さらに、新しく合成した金属錯体を反応場とし,安定小分子の活性化反応に取り組む。低原子価状態の前周期遷移金属錯体の2つの特徴―①エネルギー準位の高いd軌道に存在する供与性の強い電子、②ルイス酸性の高い金属中心―の相乗効果を利用することにより、無機小分子の変換反応を行う。例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、白リン(P4)、およびカルコゲン元素(S, Se, Te)等の活性化反応を調査する。特に、窒素分子の活性化に焦点を当て、集中的に取り組む。
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